ビルマ文字
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ビルマ文字(ビルマ語: မြန်မာအက္ခရာ、MLCTS: mranma akkha.ra、ALA-LC翻字法: Mranʻ mā ʼakkharā、ビルマ語発音: [mjəmà ʔɛʔkʰəjà] ミャマー・エッカヤー; 英: Burmese script)は、主にミャンマー連邦共和国(旧ビルマ)の公用語ビルマ語の表記に用いる文字である。
ビルマに住むモン族が使っていた文字が、改変され11世紀後半ごろにビルマ語に使われるようになった。子音を表す基本字母の周囲に母音記号と声調が組合わさり文字が形成される。文字は、全体的に丸っこい形が特徴的であるが、それは昔、文字を書くのに紙代わりに用いられていた貝多羅葉(タラパヤシ Corypha utan の葉)が裂けてしまわないよう、直線を使うのを避けたためであるといわれている。左から右へと綴る。
ビルマ語以外にモン語、シャン語、カレン語、パラウン語、およびサンスクリットやパーリ語などを書くのにも用いられる。ただしこれらの言語を表記する場合にはビルマ語の表記では用いられない追加要素なども存在し、母音字の読み方もビルマ語と全く異なる場合が見られる(参照: #ビルマ語以外を表記する場合)。
文字の一覧
従前の多くのコンピュータ環境で、ビルマ文字の入力・表示は整備されていないのが現状である。標準搭載されていない環境でビルマ文字を表示するためには、Padauk Font等のビルマ文字フォントをインストールする(ソフト・ブラウザによっては、さらにフォント設定する)必要がある。
なお、以下では、利用者の便宜を図り、一部に画像も併せて掲載する。
基本字母
基本字母は、子音を表す。子音を表す文字は33個ある。ga, za, da など、同じ発音となる文字が複数あり、音声上(発声上)の子音は23種類である。以下の表は、各段ごとに左から右へ読み、辞書の配列はこれに従う。
インド系文字であるため、デーヴァナーガリーやクメール文字と、ある一定程度は対応関係を見ることができるが、かなり崩れている。
- 背景を灰色で示した文字は、主にパーリ語由来の語彙で用いられる。
- 背景をオレンジで示したရは、パーリ語や外来語の語彙では、よく(元来の発音である)[ɹ]で発音される。
以降の説明において斜体で示すラテン文字表記は、説明のための区別・書き分けの都合上、MLCTS式に準拠する。

※話中において、無声音子音は、先行する発音次第で有声音(濁音)になることがある。(画像「ビルマ文字の基本字母および筆順」にも示した。スラッシュ「/」のあるものがそれ。スラッシュの前が元来の無声音子音。後が変化した有声音子音。)
介子音と複合文字
上記の基本字母に、ျ(y [j])、ြ(r [j])、ွ(w [w])、ှ(h [ ̥] - 鼻音などの無声化)といった4つの介子音記号(かいしいん記号)が付いたものを、複合文字という。
この4つの記号は、それぞれ単独でも基本字母と結びつくが、2~3の記号が結合して一緒に基本字母と結びつくこともある。
- ျ(y [j])、ြ(r [j])は、基本的に軟口蓋音と唇音 (すなわち、上記の表の1行目と5行目) に付いて、これらを硬口蓋化(すなわち、「○ャ行」の音に)する。
(※ただし、これらの記号が軟口蓋音(上記表1行目)に付く場合は、純粋な硬口蓋化というよりも、上記の表の2行目に本来あった音としての硬口蓋音、すなわち[tɕ](チャ行)の音を再現・補充する意味・役割となる。したがって、下の表で青で示した、က(k [k])、ခ(hk [kʰ])、ဂ(g [ɡ])に、これらの記号が付いた文字は、それぞれ([kj][kʰj](キャ行)[ɡj](ギャ行)ではなく)[tɕ][tɕʰ](チャ行)[dʑ](ジャ行)の発音になる点に、注意が必要。) - ှ(h [ ̥])は、基本的に鼻音と接近音 (すなわち、上記の表の5列目と6行目) に付いて、これらを無声化する。ここで言う無声化とは、気息と混ぜることで音素を弱化する働きだと捉えておけばいい。
(※ただし、下の表で緑で示した、ယ(y [j])、ရ(r [j])に、この記号が付いた文字は、[ɕ](シャ行)の発音になるので注意。黄緑で示したလ(l [l])でも、語彙によっては[ɕ](シャ行)の発音になる。)
母音・声調
母音記号は、母音だけでなく声調を表す役割も担っているので、同じ音価でも声調の違いによって異なってくる。
母音は[a][i][u][e][ɛ][o][ɔ]の7種あり、声調は
- 下降調 : 短く急激に下降する。「あ!」と驚く調子に近い。(初期値)
- 低平調 : 低位で平坦に伸ばす。「へぇー」と気持ちなく返事する調子に近い。
- 高平調 : 高位で平坦に伸ばすが末尾でやや下る。「ふーむ」と納得する調子に近い。
(※この他に、後述する末子音[ʔ](声門閉鎖音)で終わる高く短い音節を、4つめの声調としてカウントする考えもある。)
の3種があるので、組合わせは7(母音)×3(声調)= 21個 である。
表にまとめると、以下の通り。
- 赤で示した記号は、ခ(hk [kʰ])、ဂ(g [ɡ])、ဒ(d [d])、ပ(p [p])、ဝ(w [w])の5字母の場合に用いられる。
また、ည(ny [ɲ])とၲの組み合わせで、[i][e][ɛ]が表現されることもある。
なお、一部の母音には、デーヴァナーガリーやクメール文字など、他のインド系文字と同じく、独立した母音字もある。
末子音
末子音は、[ɴ](鼻音「ン」)と[ʔ](声門閉鎖音)の2種類のみ。
基本的には、က(k [k])、စ(c [s])、တ(t [t])、ပ(p [p])、င(ng [ŋ])、ဉ(ny [ɲ] ※ညの異字体)、န(n [n])、မ(m [m])の8字母 (すなわち、上記した基本字母表の1列目と5列目) に、်(ビルマ語では အသတ် ビルマ語発音: [ʔət̪aʔ] アタッ という)を付加することで表現される。
- င(ng [ŋ])、ဉ(ny [ɲ])、န(n [n])、မ(m [m])と、ၲの組み合わせでは、[ɴ](鼻音「ン」)が表現される。
- က(k [k])、စ(c [s])、တ(t [t])、ပ(p [p])と、ၲの組み合わせでは、[ʔ](声門閉鎖音)が表現される。
ただし、どちらの場合も、末子音のみを単独で表現するわけではなく、他の記号も織り交ぜられつつ、先行する母音とひとまとめで表現されるので、上記した母音表現の延長線上のものとして捉えるといい。
前者の[ɴ](鼻音「ン」)で終わるものは、上記した母音表現と同じく、3種の声調に合わせて3通りの形に分かれるが、後者の[ʔ](声門閉鎖音)で終わるものは、3種の声調とは異なる高く短い音になるので、1通りしかない(これを4つめの声調と捉える考え方もある)。
複数の表記法があるものは、語彙の区別に活用される。
その他
ビルマ語以外を表記する場合
ビルマ語以外にもビルマ文字を表記に用いる言語が存在するが、それらにはビルマ語に存在しない追加要素や変更、そして仮に同じ正書法をしていたとしてもビルマ語とは全く異なる発音となる事例が見られる場合がある。
カレン語
シャン語
使用される文字に以下のような違いがある(ビルマ語→シャン語)。
- ka: က → ၵ
- kha: ခ → ၶ
- ca: စ → ၸ
- cha: ဆ → သ
- ña: ည → ၺ
- na: န → ၼ
- ha: ဟ → ႁ
モン語
モン語を表記する場合 ဧ e の代わりに ဨ、င ṅa の代わりに ၚ、ဈ jha の代わりに ၛ が用いられる。また両唇入破音 /ɓ/ を表記するための文字(ၜ・ၝ)も追加されている。多くの介子音としてビルマ語表記にも用いられる ျ y・ြ r・ွ w のほかに ၞ n・ၟ m・ၠ l といったものも存在する。また本来有声音であった文字のうち少なくとも軟口蓋音や硬口蓋音のもの(つまり ga・gha・ja・jha)が無声化していたり、本来有声音用の文字であったか否かなどの条件により2種類のグループに分かれ、グループの違いにより母音記号の付き方が同じである場合の発音にも差異が生じたりするというようにクメール文字と共通する特徴も有する。
またビルマ語と同じ表記をしていても全く異なる発音となる例が存在する。以下はその例である。
コンピュータ
Unicode
Unicode では、以下の領域に次の文字が収録されている。
ビルマ文字のフォントは複数出回っているが、Unicodeと異なる文字コードを使っているものも多い。特にUnicode非対応のフォントで書かれた文章を表示する場合は、専用のフォントを別途入手する必要がある。
なお、ビルマ文字は 2008年の Unicode 5.1 で大幅な変更が加えられ、音節末子音を表す記号アタッ(ビルマ語: အသတ်。U+103A の ် のこと)、介子音、長い a などが追加された。このため Unicode 5.0 までのフォントではビルマ文字が正しく表示されないことがある。
脚注・出典
関連項目
外部リンク
- Google Noto Fonts - 「Noto Sans Myanmar」が対応。
- Padauk Font - SIL Internationalが提供するUnicode対応のビルマ文字フリーフォント「Padauk」
- ビルマ語ウィキペディア:フォント (英語) - Unicode対応フォントを紹介する。