調査報道
報道 |
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調査報道(ちょうさほうどう、英: investigative journalism)とは、報道のスタイルの1つである。あるテーマや事件に対して、取材する側が主体性と継続性を持って様々なソースから情報を積み上げていくことによって新事実を突き止めていこうとするタイプの報道である。なお、警察・検察や官庁、企業などによるリーク、広報、プレスリリースなどを中心とする報道は発表報道という。
概要
日本では、近代新聞の発行が始まった明治以降にこの概念が持ち込まれたが、大東亜戦争(太平洋戦争・第二次世界大戦)までは時の政府に対する調査報道は極めて難しく、財界や大物経済人のスキャンダル(不正行為・汚職)にほぼ限定されていた。これは、検閲制度により政府・与党・軍部に不利な発表は排除されていたことと、取材する側も明治憲法で天皇の神聖不可侵が定められたことにより、天皇を輔弼する内閣総理大臣や閣僚の私生活および裏事情に迫ることは任命権者たる天皇への不敬になる恐れがあるとして、憚られたことによる。
戦後(主権回復後)も官公庁などに記者クラブがあるため、大手マスコミすら発表報道偏重に陥りやすく、調査報道をしようとするフリージャーナリストが取材活動しづらいと指摘されている。
北海道新聞・高知新聞OBで東京都市大学教授の高田昌幸によれば、一介の個人にはできない、組織や権力者(警察、検察、官庁や大企業、大政治家)が絡む調査報道の目的は以下のことにあるという。
- 取材した中身を相手側にテーブルの上に出してみせること
- 書きっ放しにせず、書かれた相手に報道内容(往々にして不祥事などデメリット)を事実だと認めさせること
- 読者の為に書くこと
ただし、2については、書かれた相手がアウトローな組織(暴力団、右翼団体、左翼団体、カルト集団)の場合は、「自分たちにデメリットな報道内容を事実だと認めさせること」が、政府機関や一般組織や大政治家と比較して難しいことが多い。特にオウム真理教は、一連のオウム真理教事件のさなかに取材のため近づいたジャーナリストを殺害しようとした。
また、各種の報道におけるタブーの存在により、明らかになった新事実が日の目を見ない、もしくは握り潰されることもある。
調査報道は取材による手間とコストがかかる手法でもある。またそうして取材で手間とコストをかけたが取材結果が既存の公開情報と同じで新事実が出てこなかった場合、取材による手間とコストに見合うスクープという利益が得られないことになる。
事例
海外
- アイダ・ターベルによるen:The History of the Standard Oil Company
- ソンミ村虐殺事件 - フリージャーナリストシーモア・ハーシュがザ・ニューヨーカー紙に出稿。ピューリッツァー賞受賞。
- ウォーターゲート事件 - ワシントン・ポストの記者2人が調査報道を積み重ね、その結果第37代アメリカ大統領リチャード・ニクソンを辞任に追い込んだ。→詳細は「ウォーターゲート事件 § ワシントン・ポストと「ディープ・スロート」」、および「ボブ・ウッドワード § プロフィール」を参照
- ボストン・グローブによるカトリック教会の性的虐待事件
- PRISMの存在の暴露 - 英国大手大衆紙ガーディアンとワシントン・ポスト両紙による合同取材。
日本
新聞社・テレビ局による調査報道は日本新聞協会賞・日本記者クラブ賞特別賞や国際ニュースではボーン・上田賞を受けることが多いためそちらも参照されたい。本項では、新聞協会賞の選考から漏れた、または選考対象にならない雑誌媒体による調査報道のうち、特に秀逸とされた案件を紹介する。
- 菅生事件 - 共同通信社・大分合同新聞社など各社の取材により公安警察の自作自演による冤罪事件であることが判明。潜入捜査を行った警察官は事件後に庇護を受けていた事も明らかになった。
- ジャニー喜多川性加害問題 - 1950年代から2010年代にかけて、ジャニーズ事務所創業者のジャニー喜多川が性加害を繰り返していた。喜多川の生前は話題になることが少なかったが、2023年にイギリス・BBCニュースが週刊文春の協��を得てドキュメンタリー番組を制作し、イギリスや日本を始めとする世界各国で放映・配信、問題として広く認識されるようになった。
- 田中金脈問題 - 文藝春秋社OB立花隆が月刊『文藝春秋』に出稿。時の内閣を退陣に追い込んだ。→詳細は「立花隆 § 田中角栄研究」、および「田中金脈問題 § 概要」を参照
- 生活保護問題 - 札幌テレビディレクター水島宏明が北海道札幌市白石区で起こったシングルマザー餓死事件に着目し、日テレに提案して『NNNドキュメント』で放送。生活保護制度、特に「123号通知」と「水際作戦」の存在に陽の目を当てた。その後、水島は日テレに移籍して『Nドキュ』チーフディレクター、解説委員に出世した。→詳細は「生活保護問題 § 事例」を参照
- リクルート事件 - 朝日新聞社横浜・川崎両支局が第一報を報道したが、新聞協会賞受賞に至らなかった。
- NHK会長島桂次の偽証問題 - 朝日新聞の第一報に東京スポーツが追随したが、新聞協会賞受賞に至らなかった。
- 山一證券の損失補填疑惑 - 東洋経済新報社『週刊東洋経済』が第一報。その後、山一證券は自主廃業した。雑誌ジャーナリズム賞受賞。→詳細は「山一證券 § 三木淳夫時代」、および「野澤正平 § 山一最後の社長」を参照
- 則定衛の女性問題 - 雑誌『噂の眞相』が第一報を報じ、朝日新聞が追随。則定は法務大臣に指揮権発動を検討される手前まで行き、辞職に追い込まれた。→詳細は「則定衛 § 疑惑報道」、および「三井環事件 § 事件一覧」を参照
- 松本サリン事件 - TBSテレビ『スペースJ』で下村健一が冤罪だといち早く指摘。テレビ信州も別ルートで調査報道を蓄積し河野義行の冤罪確定に貢献した。→詳細は「松本サリン事件 § 冤罪・報道被害」を参照
- 桶川ストーカー殺人事件 - 新潮社の写真週刊誌『フォーカス』が第一報を報じ、全国朝日放送(現・テレビ朝日)が『ザ・スクープ』で追随した。→詳細は「桶川ストーカー殺人事件 § FOCUSの犯人追跡報道」を参照
- 北海道警裏金事件 - 北海道新聞が報じ、テレ朝『ザ・スクープSPECIAL』が追随。同時期に道警を取材していた作家佐々木譲の道警シリーズを執筆する際のたたき台となる。
- 足利事件 - FOCUS廃刊後に日テレに移籍した清水潔が、『ACTION 日本を動かすプロジェクト』で冤罪だと指摘。被告人は再審の結果無罪判決を獲得した。民放連賞最優秀賞受賞。→詳細は「足利事件 § 冤罪事件として」、および「清水潔 (ジャーナリスト) § 経歴」を参照
- オリンパス事件 - ファクタ出版『月刊FACTA』が第一報を報じ、日本経済新聞が追随。
- 偽装請負問題 - 日本共産党『しんぶん赤旗』が第一報を報じ、朝日新聞が追随した。
- 精神医療を問う - 東洋経済新報社『東洋経済オンライン』で連載された
- かんぽ生命保険の不正契約問題 - NHK G『クローズアップ現代+』が第一報を報じたものの、かんぽの親会社日本郵政の圧力で続編を放送出来なくなったところへ西日本新聞『あなたの特命取材班』が追随。早稲田ジャーナリズム大賞受賞。→詳細は「あなたの特命取材班 § かんぽ生命保険をめぐる不正契約問題」、および「かんぽ生命保険 § 不正契約問題」を参照
- 富山市議会政務活動費私的流用問題 - 北日本新聞が第一報を報じ、チューリップテレビ(TBS系列)が追随。定数38人のうち14人が辞職する異常事態となる。北日本新聞が新聞協会賞、チューリップテレビは菊池寛賞をそれぞれ受賞した。
- お笑い芸人による闇営業問題 - 講談社『FRIDAY』が第一報を報じ、スポーツ新聞各紙が追随。
- アサリ産地偽装問題 - CBCテレビが第一報を報じ、TBS系列のキー局TBSテレビでも『報道特集』などに引用放送。その結果、熊本県が同県産のアサリ出荷を一時停止する事態となった。
- 湖東記念病院事件 - 中日新聞本社特別取材班が創出版『月刊創』で連載。司法の実態を告発した。早稲田ジャーナリズム大賞草の根民主主義部門受賞。
- キッズラインをめぐる一連の不祥事 - メディアジーン『Business Insider日本版』が第一報を報じ、複数の媒体が追随。
- 東京オリンピックにおける食品ロス問題 - TBSテレビ『news23』『報道特集』が明らかにした。
- 自由民主党の政治資金パーティー収入の裏金問題 - しんぶん赤旗が第一報を報じ、その後神戸学院大学教授上脇博之による刑事告発を経て、読売新聞が追随。自由民主党の派閥が一部を除き解散に追い込まれる事態になった。しんぶん赤旗にJCJ大賞が贈られたが、新聞協会賞は朝日新聞が受賞した。
インターネット上での調査報道を採用している媒体
2018年1月に西日本新聞社が開始した調査報道企画「あなたの特命取材班」の成功を機に、新聞社を中心に「あなたの特命取材班」と同種の調査報道企画を採用している報道機関が増えている。いずれの報道機関も、読者からインターネット経由で情報提供を受けて、記者が取材を行い、ニュース化しているのが特徴である。
- 2024年2月時点。
- 表中「JOD」は「あなたの特命取材班」と提携しているメディア(JODパートナーシップ参加媒体)。詳細は、公式サイトの《JODの理念とパートナー一覧》を参照。なお、東奥日報のように通常記事閲覧が有料のウェブサイトにおいても、当該記事は基本的に閲覧制限が設定されていない。
- 「NHK」は各地のNHK放送局(全ての局で調査報道を実施している訳ではない)。詳細と参加局の一覧はNHK NEWS WEB内の「声を聴かせて!あなたのお困りごとをNHKが調べます」も参照。
- 表中で「(東京新聞、NHK)」のようにカッコ書きで媒体名が記載され「連携」欄が「△」の場合、県域紙やローカル局でなく県内を頒布対象とするJOD参加のブロック紙、もしくはNHK首都圏局がカバーしていることを表す。「-」はその媒体で独自に調査報道を行っているが、JODには非参加。「採用媒体なし」で「×」の場合、県域紙やローカル局では調査報道を行っていない(全国紙のみフォロー)。
- 海外については、西日本新聞の自社支局があるアメリカ・タイ・韓国・中国において『あなたの海外特派員』というタイトルで同様の企画が行われており、その取材結果は西日本新聞のWebサイトやSNSを通じてフィードバックされる。
脚注
注釈
出典
関連項目
- ジャーナリスト
- センター・フォー・パブリック・インテグリティ
- オープン・ソース・インテリジェンス
- 発表報道
- 国別にみた情報公開法
- 日本新聞協会賞 - 編集部門賞は調査報道の成果が授賞対象となることが多い
- あなたの特命取材班
- 潜入報道(アンダーカバー・ジャーナリズム )
- コタツ記事