AMD Accelerated Processing Unit

AMD Accelerated Processing Unit(エーエムディー・アクセラレーテッド・プロセッシング・ユニット、略称:AMD APU)とは、AMD2006年から開発を行なっている、CPUGPUとを合成・統合させた新しい製品の名称である。AMDはもともとCPUおよびチップセットを手がけるメーカーだったが、このAPUの計画は、AMDによるATI買収により浮上した。AMD APUの当初の開発コード名はAMD Fusion(フュージョン)であり、2011年の正式製品発表当初は「AMD Fusion APU」と表記されていたが、2012年後半以降、AMDは単に「APU」と呼称している。

ロードマップ

AMD APU製品のロードマップを以下に示す 。

GPUコンピューティングにおけるAPUとHSA

旧来のGPUはグラフィック処理に関する機能のみに特化していたが、プログラマブルシェーダーの出現以降、汎用性に関してもその能力を拡大させてきた。GPUの高い並列処理性能を汎用処理にも活用し、コプロセッサ的な役割をさせる取り組みがGPGPUである。AMD(旧ATI)も早くから自社GPU(FireStreamRadeonなど)を活用したストリームプロセッシング技術 (ATI Stream/AMD Stream) を開発・実用化し、普及に取り組んでいたものの、競合となるNVIDIAのほうが統合開発・実行環境CUDAの整備によって普及率の点で先行していた。

GPUは並列処理に特化することでCPUをはるかに超える理論演算性能を実現しており、それを汎用処理に活用するのがGPGPUのコンセプトだが、従来のCPUとGPUとはメモリ空間が完全に独立しており、CPU-GPU間のメモリ転送にかかる処理時間およびプログラミング上の手間が、性能のボトルネックやソフトウェア開発の難しさにつながるという問題も抱えている。たとえばGPUで演算した結果をCPUで読み出して利用する場合、従来アーキテクチャではGPUメモリからCPUメモリへのデータ転送が必要となる。これは物理的にメモリが分離されているディスクリートGPUとCPUによる構成だけでなく、従来型のオンボードグラフィックスやCPU内蔵GPUといった、物理メモリを共有する構成においても同様である。

AMDはこの問題をハードウェアレベルで根本的に解決する道として、開発コードAMD Fusionのもとに、GPUをCPUと統合するFusion System Architecture (FSA) 構想を掲げることになる。GPUとCPUを統合することで、物理的にも論理的にもメモリ空間が統一され、煩雑なCPU-GPU間のメモリ転送をなくすことができる。

なおAMDは、2012年からはFSAをHeterogeneous System Architecture (HSA) 構想へと改称し、さらにHSAの実装形態であるAMD Fusion改めAMD APUをもってして、異種計算資源(異種プロセッサ)混在環境をターゲットに据えた標準API規格「OpenCL」およびヘテロジニアスマルチコアテクノロジーによるCPUとGPUの融合を推進している。

Kabini/Temash世代以降ではGraphics Core Next (GCN) 世代のGPUを搭載し、Mantle APIにも対応した。

また、HSAの完成形を支える要素技術のうち特に重要なものとして、CPU/GPUのメモリ一貫性キャッシュコヒーレンシ)やGPUページフォールトのサポートを実現する heterogeneous Uniform Memory Access (hUMA) が挙げられるが、hUMAに対応するAPUはKaveri世代以降である。

その他、HSA環境ではHSAIL (HSA Intermediate Language) と呼ばれる中間言語バイトコード)によって、ハードウェアの違いを吸収できる。コンパイラ側がHSAIL生成に対応することにより、OpenCL CやC++ AMPといった並列コンピューティング向けの専用言語だけでなく、Javaのような仮想マシンベースの汎用言語でもHSA環境で動作するプログラムを記述できることになる。

他社製品への影響

Intelは、Intel AtomおよびWestmere世代のClarkdaleでCPUにGPU (Intel HD Graphics) を内蔵し、Sandy Bridge世代以降でCPU内蔵GPUの性能を大幅に向上させた。以降は従来型のオンボードグラフィックスの代替として、内蔵GPUは標準的な機能となった。NVIDIAも自社GPUであるGeForceARMプロセッサと統合したNVIDIA Tegraシリーズを開発・販売している。

HPCなどでGPGPUの絶対性能を追求する場合、統合GPU (Integrated GPU, iGPU) よりも単体GPU (Discrete GPU, dGPU) とCPUによる構成のほうが依然として有利であることには変わりないが、AMD APUのような統合製品はノートPCやモバイル環境を考慮して、省電力性能やワットパフォーマンス英語版を重視した設計となっている。

ゲーム機ベンダーでは独自チップの開発コストが高騰していたため、主にコスト削減の目的で統合型のチップが求められた。Xbox Oneは、AMD APUを採用し、PlayStation 4は、当初Intelと開発を進めていたが、AMD APUに切り替えられた。

製品

以下ではデスクトップパソコンノートパソコン向けの主なAPU製品について、世代ごとに記述する(ビジネス向けの製品や、省電力ノートやタブレット向けのUltra-mobile APUと呼ばれる製品は省略されている場合がある)。

パフォーマンスコア

K10 世代

Llano

2011年6月に発表された製品群。CPUアーキテクチャは改良版K10で、GPUアーキテクチャはVLIW5

デスクトップ向け
モバイル向け
  • 対応ソケット: Socket FS1

Piledriver 世代

Trinity

2012年5月に発表された製品群。CPUアーキテクチャはPiledriverで、GPUアーキテクチャはVLIW4

デスクトップ向け
モバイル向け
Richland

2013年3月に発表された製品群で、Trinityのマイナーチェンジ版。CPUアーキテクチャはPiledriverで、GPUアーキテクチャはVLIW4

デスクトップ向け
モバイル向け
Kaveri

2014年1月に発表された製品群。CPUアーキテクチャはSteamrollerで、GPUアーキテクチャはGCN(第二世代)。CPUとGPUをより統一的に扱う技術「HSA」に対応した。特にHSAのhUMAに対応した点が特徴。Kaveriからオーディオプロセッサ「TrueAudio英語版」を統合した。GPUアーキテクチャの刷新に伴い、新しいグラフィックスAPI「Mantle」に対応した。この世代から内蔵GPUはRadeon HD 8670Dといった型番で公表されず、Radeon R7のようなシリーズ名のみとなった。

デスクトップ向け
モバイル向け
Godavari

2015年5月に発表された製品群で、デスクトップ向けKaveriのマイナーチェンジ版。CPUアーキテクチャはSteamrollerで、GPUアーキテクチャはGCN(第二世代)。開発コードネームをKaveri Refreshとしていた時期もあった。

デスクトップ向け
  • 対応ソケット: Socket FM2+
  • A10-7890KにはAMD Wraith Coolerが付属する。また、A10-7870Kも新しいAMD Wraith Coolerに近い静穏性のクーラーが付属するようになる。
  • A10-7870KおよびA8-7670Kはダイとヒートスプレッダがハンダにより接合されていることが確認されている。

Excavator 世代

Carrizo

2015年6月に発表された製品群。CPUアーキテクチャはExcavatorで、GPUアーキテクチャはGCN(第三世代)。APUにチップセットの機能が統合されSoCとなった。

デスクトップ向け
モバイル向け
Bristol Ridge

2016年6月に発表された製品群で、Carrizoのマイナーチェンジ版。CPUアーキテクチャはExcavatorで、GPUアーキテクチャはGCN(第三世代)

デスクトップ向け
モバイル向け
Stoney Ridge

2016年6月に発表された製品群。CPUアーキテクチャはExcavatorで、GPUアーキテクチャはGCN(第三世代)。Carrizo-Lの実質的な後継製品。

モバイル向け

Zen 世代

APU製品のブランド名が(従来の「A-Series」「E-Series」「C-Series」から)「Ryzen」「Athlon」に変更された。

Raven Ridge

2017年10月に発表された製品群。CPUアーキテクチャはZenで、GPUアーキテクチャはGCN(第五世代)。CPUアーキテクチャの刷新によりCPUコアあたりの性能が向上した。

デスクトップ向け
モバイル向け
Dali

2020年1月に発表された製品群で、モバイル向けRaven Ridgeのマイナーチェンジ版。CPUアーキテクチャはZenで、GPUアーキテクチャはGCN(第五世代)

モバイル向け
Pollock

2020年8月に発表された製品群で、モバイル向けRaven Ridgeのマイナーチェンジ版。CPUアーキテクチャはZenで、GPUアーキテクチャはGCN(第五世代)

モバイル向け
Picasso

2019年1月に発表された製品群。CPUアーキテクチャはZen+で、GPUアーキテクチャはGCN(第五世代)

デスクトップ向け
モバイル向け

Zen 2 世代

Renoir

2020年1月に発表された製品群。CPUアーキテクチャはZen 2で、GPUアーキテクチャはGCN(第五世代)

デスクトップ向け
  • 対応ソケット: Socket AM4
  • いずれもOEM向けだが、Ryzen 7 PRO 4750G、Ryzen 5 PRO 4650G、Ryzen 3 PRO 4350Gは日本においてのみバルク品が販売された。
モバイル向け
Lucienne

2021年1月に発表された製品群で、モバイル向けRenoirのマイナーチェンジ版。CPUアーキテクチャはZen 2で、GPUアーキテクチャはGCN(第五世代)

モバイル向け
Mendocino

2022年9月に発表された製品群。CPUアーキテクチャはZen 2で、GPUアーキテクチャはRDNA 2

モバイル向け

Zen 3 世代

Cezanne

2021年1月に発表された製品群。CPUアーキテクチャはZen 3で、GPUアーキテクチャはGCN(第五世代)

デスクトップ向け
モバイル向け
Barcelo

2022年1月に発表された製品群で、モバイル向けCezanneのマイナーチェンジ版。CPUアーキテクチャはZen 3で、GPUアーキテクチャはGCN(第五世代)

モバイル向け
Rembrandt

2022年1月に発表された製品群。CPUアーキテクチャはZen 3+で、GPUアーキテクチャはRDNA 2

モバイル向け

Zen 4 世代

Raphael

2022年8月に発表された製品群。CPUアーキテクチャはZen 4で、GPUアーキテクチャはRDNA 2

デスクトップ向け
Dragon Range

2023年1月に発表された製品群。CPUアーキテクチャはZen 4で、GPUアーキテクチャはRDNA 2

モバイル向け
Phoenix

2023年1月に発表された製品群。CPUアーキテクチャはZen 4およびZen 4cで、GPUアーキテクチャはRDNA 3。新たに「Ryzen AI」と呼ばれるNPUを搭載。

デスクトップ向け
モバイル向け
Hawk Point

2023年12月に発表された製品群で、モバイル向けPhoenixのマイナーチェンジ版。CPUアーキテクチャはZen 4で、GPUアーキテクチャはRDNA 3。NPUを搭載。

デスクトップ向け
モバイル向け

Zen 5 世代

Granite Ridge

2024年6月に発表された製品群。CPUアーキテクチャはZen 5で、GPUアーキテクチャはRDNA 2

デスクトップ向け
Fire Range

2025年1月に発表された製品群。CPUアーキテクチャはZen 5で、GPUアーキテクチャはRDNA 2

モバイル向け
Strix Halo

2025年1月に発表された製品群。CPUアーキテクチャはZen 5で、GPUアーキテクチャはRDNA 3.5。NPUを搭載。

モバイル向け
Strix Point

2024年6月に発表された製品群。CPUアーキテクチャはZen 5およびZen 5cで、GPUアーキテクチャはRDNA 3.5。NPUを搭載。

モバイル向け
Krackan Point

2025年1月に発表された製品群。CPUアーキテクチャはZen 5およびZen 5cで、GPUアーキテクチャはRDNA 3.5。NPUを搭載。

モバイル向け

低消費電力コア

Bobcat 世代

Zacate/Ontario/Desna/Hondo

2011年1月に発表された、AMDでは初となるAPU製品。CPUアーキテクチャはBobcatで、GPUアーキテクチャはVLIW5

モバイル向け
タブレット向け

Jaguar 世代

Kabini/Temash

2013年5月に発表された製品群。CPUアーキテクチャはJaguarで、GPUアーキテクチャはGCN(第二世代)。APUにチップセットの機能が統合されSoCとなった。

デスクトップ向け
モバイル向け
タブレット向け

Puma 世代

Beema/Mullins

2014年4月に発表された製品群。CPUアーキテクチャはPumaで、GPUアーキテクチャはGCN(第二世代)

モバイル向け
タブレット向け
Carrizo-L

2015年5月に発表された製品群で、Beemaのマイナーチェンジ版。CPUアーキテクチャはPuma+で、GPUアーキテクチャはGCN(第二世代)

モバイル向け

脚注

注釈 

出典 

関連項目

外部リンク

Uses material from the Wikipedia article AMD Accelerated Processing Unit, released under the CC BY-SA 4.0 license.