バリウム
この項目では、元素について説明しています。
X線造影剤等として用いられるバリウム化合物については「硫酸バリウム 」をご覧ください。
古代ローマ時代のイタリアの都市については「バーリ 」をご覧ください。
ロシュ社の抗不安薬「Valium 」については「ジアゼパム 」をご覧ください。
外見
銀白色
一般特性
名称 , 記号 , 番号
バリウム, Ba, 56
分類
アルカリ土類金属
族 , 周期 , ブロック
2 , 6 , s
原子量
137.33
電子配置
[ Xe ] 6s2
電子殻
2, 8, 18, 18, 8, 2(画像 )
物理特性
相
固体
密度 (室温 付近)
3.51 g/cm3
融点 での液体密度
3.338 g/cm3
融点
999.4 K , 726.2 ° C , 1339.2 ° F
沸点
1910 K , 1637 ° C , 2979 ° F
融解熱
7.12 kJ/mol
蒸発熱
140.3 kJ/mol
熱容量
(25 ° C ) 28.07 J/(mol·K)
蒸気圧
圧力 (Pa)
1
10
100
1 k
10 k
100 k
温度 (K)
911
1038
1185
1388
1686
2170
原子特性
酸化数
2 (強塩基性酸化物 )
電気陰性度
0.89(ポーリングの値)
イオン化エネルギー
第1: 502.9 kJ/mol
第2: 965.2 kJ/mol
第3: 3600 kJ/mol
原子半径
222 pm
共有結合半径
215 ± 11 pm
ファンデルワールス半径
268 pm
その他
結晶構造
体心立方
磁性
常磁性
電気抵抗率
(20 ° C ) 332 nΩ ⋅ m
熱伝導率
(300 K) 18.4 W/(m⋅ K)
熱膨張率
(25 ° C ) 20.6 μ m/(m⋅ K)
音の伝わる速さ (微細ロッド)
(20 ° C ) 1620 m/s
ヤング率
13 GPa
剛性率
4.9 GPa
体積弾性率
9.6 GPa
モース硬度
1.25
CAS登録番号
7440-39-3
主な同位体
詳細はバリウムの同位体 を参照
バリウム (英 : barium [ˈbɛəriəm] )は、原子番号 56 の元素 。元素記号 は Ba 。アルカリ土類金属 のひとつ。
名称
アルカリ土類金属としては密度が大きく重いため、ギリシャ語 で「重い」を意味する βαρύς (barys) にちなんで命名された。ただし、金属バリウムの比重は約3.5であるため軽金属 に分類される。
性質
単体では銀白色の軟らかい金属。他のアルカリ土類金属元素と類似した性質を示すが、カルシウム やストロンチウム と比べ反応性は高い。化学的性質としては+2価の希土類 イオンとも類似した性質を示す。
バリウム塩には毒性があり、摂取するとカリウムチャネル をバリウムイオンが阻害することによって神経系への影響が生じる。そのためバリウム塩(バリウム化合物)は毒物及び劇物取締法 (指定令)において劇物に指定されている(金属のバリウムは指定されていない、硫酸バリウムなど指定されない物質もある)。
物理的性質
バリウムは鉛 と同程度に柔らかく銀白色の外観を有するアルカリ土類金属 である。金属光沢 を有しているが、空気中では徐々に酸化されて白色の酸化被膜に覆われるため金属光沢は失われる。融点 および沸点 は資料により異なるデータがみられ、融点は729 ° C や725 ° C 、726.2 ° C というデータがあり、沸点は1898 ° C (1気圧)、1640 ° C 、1637 ° C (1気圧)というデータがある。密度が3.51 g/cm3 と低いため軽金属 に分類される。常温、常圧で安定な結晶構造は体心立方構造 (BCC) であり、その格子定数a は5.01である。
炎色反応 においてバリウムは黄緑色の炎色を呈する。主要な輝線は524.2 nmおよび513.7 nmの緑色のスペクトル線 であり、それらは双子線を示すアルカリ金属元素の輝線とは対照的に単線を示す。
化学的性質
各種アルカリ土類金属塩および亜鉛塩の密度 g·cm−3
O2-
S2-
F-
Cl-
SO4 2-
CO3 2-
O2 2-
H-
Ca2+
3.34
2.59
3.18
2.15
2.96
2.83
2.9
1.7
Sr2+
5.1
3.7
4.24
3.05
3.96
3.5
4.78
3.26
Ba2+
5.72
4.3
2.1
1.9
4.49
4.29
4.96
4.16
Zn2+
5.6
4.09
4.9
2.09
3.8
4.4
1.57
—
バリウムの化学的性質はカルシウム やストロンチウム に類似しているものの、アルカリ土類金属元素の電気陰性度 は原子番号が大きくなるにつれて小さくなる傾向があるため、バリウムはカルシウムやストロンチウムよりもさらに反応性が高い。このアルカリ土類金属元素の持つ性質の連続的な変化によって、バリウムの塩は他のアルカリ土類金属の塩と比較して水和物 を形成しやすく、水に対する溶解度が低く、熱的安定性が優れているという性質を有している。2価のバリウムイオンの化学的性質はユウロピウム やサマリウム 、イッテルビウム イオンなど2価の希土類イオンと類似しており、バリウム鉱石中にこれらの元素が含まれていることがある。バリウムイオンは可視領域にスペクトルを持たないためバリウム化合物は全て無色であり、バリウム化合物の着色はアニオン側の持つ色や構造の欠陥に起因して生じたものである。
バリウムの電溶圧は水素 よりも大きいため水と激しく反応して水素を発生させ、アルコールとも同様に激しく反応する。
Ba
+
2
H
2
O
⟶
Ba
(
OH
)
2
+
H
2
{\displaystyle {\ce {Ba + 2H2O -> Ba(OH)2 + H2}}}
バリウムは空気中で徐々に酸化されて白色の酸化バリウムを形成し、この酸化物もまた水と激しく反応して水酸化バリウムとなる。水酸化バリウムはアルカリ土類金属の水酸化物の中では水に対する溶解度が高く強塩基性である。バリウムは高温で炭素と直接反応してイオン性アセチリドである炭化バリウムを生成する。この炭化物は加水分解によってアセチレン を発生させる。また、ホウ素 、ケイ素 、ヒ素 、硫黄 などとも直接反応してイオン性の化合物を形成するが、これらの化合物もまた容易に加水分解を受ける。オキソ酸とも反応して硫酸バリウムや硝酸バリウムのような化合物を形成し、それらの化合物は水に対する溶解性が低い。
バリウムの過塩素酸 塩はジエチレントリアミン によって錯体 を形成するが、安定に存在できるのは固体常態のみであり溶液中では容易に解離する。また、クラウンエーテル とも錯体を形成する。バリウムは液体アンモニア に溶解して青色の溶液となり、ここからアンモニアを除去することでバリウムのアンミン錯体を得ることができる。
バリウムはアルミニウム 、亜鉛 、鉛およびスズ を含むいくつかの金属と結合し、合金 および金属間化合物 を形成する。
同位体
自然より産出するバリウムは七つの同位体の混合物であり、天然存在比 が最大のものは138 Baの71.7%である。バリウムは40の同位体が知られているが、それらのほとんどは半減期 が数ミリ秒から数日の高い放射能 を持つ放射性同位体である。例外として、10.51年という比較的長い半減期を持つ133 Baがある。133 Baは原子物理学の研究におけるガンマ線探知機などにおいて校正用の標準線源として用いられる。
分析
定性分析
バリウムを含む溶液に硫酸を加えると不溶性の硫酸バリウムが白色沈殿として生じるため、これをもって簡易な定性分析 を行うことができる。しかしこの方法では、同族元素であるカルシウム もしくはストロンチウム が含まれているとバリウムと同様に硫酸塩の沈殿が生じ、鉛イオンもまた同様に硫酸鉛 の白色沈殿を生じさせて定性分析の妨害となる。
バリウムの定性分析法としては、酢酸緩衝液下でクロム酸バリウム の黄色沈殿を生じさせる方法が用いられる。この際、マスキング剤としてエチレンジアミン四酢酸 (EDTA) と塩化マグネシウムを加えることで他の元素がEDTAと錯体を形成するため、バリウム以外の元素が水酸化物として沈殿して妨害するのを抑止することができる。
バリウムは炎色反応 においてうすい緑色を呈するが、銅やマンガン 、テルル 、ビスマス など多くの元素が類似の炎色を示すため定性分析としては利用し難い。
定量分析
溶液中のバリウム濃度の定量分析 法として、硫酸バリウムもしくはクロム酸バリウムの形でバリウムを沈殿させてその重量を測定する重量法が挙げられる。硫酸バリウムを用いた場合には、ストロンチウが不純物として含まれているとストロンチウムの分も分析値に上乗せされるため、原子吸光 法などによってストロンチウムの含有量を別途測定して分析値から差し引く必要がある。また、このようにして得られたクロム酸バリウムを硫酸酸性溶液に溶解させ、規定量の硫酸鉄(II) 溶液を加えたのちに過剰量の硫酸鉄(II)を過マンガン酸カリウム 溶液で逆滴定 する容量分析 法によっても定量分析することもできる。これは、クロム酸の作用で硫酸鉄(II)が酸化される反応を利用したものであり、クロム酸の逆滴定と同一の方法である。バリウム溶液中に、アンモニア性塩化アンモニウム緩衝溶液およびマグネシウム溶液を加え、エリオクロムブラックT を指示薬としてEDTA溶液でキレート滴定する方法も用いられるが、この方法においても硫酸バリウムを用いた重量法と同様にストロンチウムの分析値を差し引く必要がある。EDTAによるキレート滴定法は日本工業規格 におけるバリウムの定量分析法の一つとして採用されている。
機器分析法としては、フレームレス原子吸光法 (AAS) やICP-AES、ICP-MSが利用され、AASの吸収波長は553.6 nm、ICP-AESの発光波長は233.527 nmおよび455.403 nmが用いられる。
歴史
バリウムの発見者であるカール・ヴィルヘルム・シェーレ
バリウムの名称は、ギリシャ語 で「重い」を意味するβαρύς (barys) に由来しており、それは一般的なバリウムを含む鉱石が高密度であることを表している。中世初期の錬金術師たちはいくつかのバリウム鉱石を知っており、イタリア のボローニャ で見つけられた滑らかな小石様の重晶石 鉱石は「ボローニャの石」として知られていた。その石に光を照射するとその後輝き続ける(つまり蛍光 を示す)ことから、魔女や錬金術師たちはこの石に魅力を感じていた。ボローニャ石の発光は、主成分である重晶石(硫酸バリウム;BaSO4 )に起因すると考えられていたが、Cu+/2+ ドープBaSによるものだと明らかになっている。
1774年、スウェーデン のカール・ヴィルヘルム・シェーレ が軟マンガン鉱 に新しい元素が含まれていることを発見したが、その鉱石からバリウムを分離することはできなかった。ヨハン・ゴットリーブ・ガーン もまた類似した研究を行い、シェーレによるバリウムの発見から二年後に酸化バリウム として鉱石から分離することに成功した。酸化バリウムは初めルイ=ベルナール・ギュイトン・ド・モルヴォー によってbaroteと呼ばれており、アントワーヌ・ラヴォアジエ によってバリタ (baryta) と改名された。また、18世紀にはイギリスの鉱物学者であるウィリアム・ウィザリング もカンバーランド の鉛鉱山で産出する重い鉱石(炭酸バリウム の鉱石である毒重石 (英語版 ) )について言及していた。1808年、イギリスのハンフリー・デービー がバリウム塩の溶融塩電解によってバリウムの単体を初めて単離した。デービーは類似した性質を示すカルシウム の命名法に準じて、酸化バリウムを表すバリタ (baryta) の後ろに金属元素を意味する接尾語である「-ium」を付けてバリウム (barium) 名付けた。ロベルト・ブンゼン およびアウグストゥス・マーティセン (英語版 ) は、塩化バリウムと塩化アンモニウム の混合物を溶融させて電気分解を行うことによって純粋なバリウムを得た。
電気分解および液体空気の分留が有意な酸素の生産方法として確立される以前は、過酸化バリウムを用いて純粋な酸素を生産するブリン法 (英語版 ) がバリウムの大規模な用途であった。これは、酸化バリウムを空気中で500から600度で熱して過酸化バリウムとし、この過酸化バリウムを700℃以上で熱することによって純粋な酸素を得るという方法である。
2
BaO
+
O
2
↽
−
−
⇀
2
BaO
2
{\displaystyle {\ce {2BaO + O2 <=> 2 BaO2}}}
1908年には、消化器系のX線写真 で造影剤 として初めて利用された。
存在
地殻における存在量は豊富であり、重晶石 (硫酸バリウム )などの鉱石として産出する。確認埋蔵量の48.6%を中国 が占めており、生産量も50%以上が中国によるものである。
バリウムの宇宙全体の平均濃度の推定値は重量濃度で10 ppb、太陽 における推定濃度も10 ppbである。地殻 においては比較的豊富に存在しており、その存在量は4.25 × 102 mg/kgである。また、海水中には1.3 × 10-2 mg/L含まれる。地殻中において重晶石 (硫酸塩)や毒重石 (炭酸塩)のような鉱物として存在している。毒重石の鉱石は、例えば北イングランドのニューボロー (英語版 ) 近辺のセッティングストーンズ鉱山などにおいて17世紀から1969年までの間採掘されてきたが、現在はほとんど全てのバリウムは重晶石として採掘されている。アメリカ地質調査所 の2005年版Mineral Commodity Summaries を元にした東北経済産業局の報告書によれば、バリウムの確認埋蔵量は重晶石ベースで7.4億トン、可産鉱量は2.0億トンであると見積もられており、可産年数は29年とされている。重晶石の大きな鉱床は中華人民共和国 、ドイツ 、インド 、モロッコ およびアメリカ合衆国 で発見されており、確認埋蔵量の48.6%を中国が占めている。毒重石の鉱床としてはイギリス、ルーマニア 、旧ソビエト連邦 などに見られるが、それらは商業的に重要ではない。バリウムを含む宝石 としては濃い青色を示すベニト石 (ベニトアイト)があり、カリフォルニア州 のサン・ベニト で産出する。
生産
世界の重晶石生産量の動向
2010年の重晶石の生産国
バリウム(重晶石)の年間生産量のピークは1981年の830万トンであり、そのうち7-8%だけが金属バリウムやその化合物の生産に利用された。これは、バリウムの最大の用途が掘穿泥水 (英語版 ) における加重剤 としての用途であり、この目的には重晶石をそのまま粉砕して硫酸バリウムとして利用するためである。シェールガス の採掘増加に伴う掘穿泥水の需要増によって、2016年にはピーク時の生産量を越える930万トンにまで需要が拡大するものと予想されている。2011年におけるバリウム生産量はその50%以上を中国が占めており、それに14%のインド、8.4%のモロッコ、8.3%のアメリカが続いている。
バリウムは空気中で容易に酸化されるため単体の金属バリウムを得ることは困難であり自然から金属バリウムが産出することはなく、金属バリウムは主に重晶石 から抽出することで生産されている。採掘された重晶石は手選、ログウォッシャー を用いた洗鉱(水力によって重晶石と脈石や粘土を分離させる)、粉砕、比重選鉱 など分別工程によって石英から分離される。良質の重晶石はこの工程で重晶石と脈石の分離が可能であるが、石英が鉱石に非常に深く貫入していたり、鉄 や亜鉛 、鉛 の濃度が高い場合、あるいは「黒鉱 」内の重晶石は、オレイン酸 などを用いた泡沫浮遊選鉱 (en )によって選鉱 される。この過程によって重晶石としての純度は質量濃度で98%まで高められ、不純物として含まれる鉄や二酸化ケイ素 が除去される。この重晶石は非常に溶解し難いため、重晶石を直接的に金属バリウムや他のバリウム化合物を得るための前駆体とすることはできず、重晶石中の硫酸バリウム を硫化バリウム に還元するために炭素 とともに加熱する前処理が行われる。
BaSO
4
+
2
C
⟶
BaS
+
2
CO
2
{\displaystyle {\ce {BaSO4 + 2C -> BaS + 2CO2}}}
こうして得られた水溶性の硫化バリウム は、その水溶液を酸素と反応させることで水酸化バリウム が、硝酸 と反応させることで硝酸バリウム が、二酸化炭素 と反応させることで炭酸バリウム が得られるなど、様々なバリウム化合物を生産するための前駆体となる。また、硝酸バリウム を熱分解させることで酸化物が得られる。金属バリウムは酸化バリウムをアルミニウム とともに1100° C で還元させることによって得られる。この反応では、はじめに金属間化合物であるBaAl4 が形成される。
3
BaO
+
14
Al
⟶
3
BaAl
4
+
Al
2
O
3
{\displaystyle {\ce {3BaO + 14 Al -> 3BaAl4 + Al2O3}}}
この金属間化合物は反応中間体 であり、BaAl4 と酸化バリウムが反応することで金属バリウムを与える。酸化バリウムとアルミニウムとの反応において酸化バリウムの全量が還元しきるわけではないことに注意。
8
BaO
+
BaAl
4
⟶
Ba
↑
+
7
BaAl
2
O
4
{\displaystyle {\ce {8BaO + BaAl4 -> Ba (^) + 7 BaAl2O4}}}
さらに残った酸化バリウムは、先の反応で形成された酸化アルミニウムと反応する。
BaO
+
Al
2
O
3
⟶
BaAl
2
O
4
{\displaystyle {\ce {BaO + Al2O3 -> BaAl2O4}}}
全体的な反応は以下のようになる。
4
BaO
+
2
Al
⟶
3
Ba
↑
+
BaAl
2
O
4
{\displaystyle {\ce {4BaO + 2Al -> 3Ba (^) + BaAl2O4}}}
こうして得られたバリウム蒸気はアルゴン 雰囲気下で回収、冷却され型に詰められる。この方法は商業的に使われており、高純度で金属バリウムを得ることができる。一般的に市販される金属バリウムの純度は99%であり、主な不純物はストロンチウム およびカルシウム (最大で0.8%および0.25%)、他の不純物は0.1%よりも低い。
類似した反応として、酸化バリウムをケイ素 と1200° C で反応させることによって金属バリウムとメタケイ酸バリウムを得る方法がある。電解法では、生成した金属バリウムがすぐに原料の溶融塩に溶解しハロゲン化物の汚染を受けやすいため利用されない。
用途
バリウムの最大の用途は油井 やガス井を採掘するための掘穿泥水 (英語版 ) における加重剤 であり、重晶石を砕いたバライト粉が利用される。
造影剤として食道を造影したレントゲン写真
バリウムによって緑色を示す花火
単体としての用途
バリウム単体の用途として最も重要なものに、テレビのブラウン管 のような真空管 内に痕跡量残存した最後の酸素やその他のガスを取り除くゲッター (英語版 ) としての用途があったが、この用途はブラウン管を使わない液晶テレビやプラズマテレビの普及によって、姿を消しつつある。他の単体バリウムとしての用途は小規模であり、アルミニウム-ケイ素合金であるシルミン の結晶構造を安定化させるための添加材として用いられるように、以下のような合金への添加材としての用途が挙げられる。
耐クリープ 性を増加させるための鉛スズ合金(はんだ)への添加
接種材としての鋼鉄や鋳鉄への添加
高純度鋼の脱酸材としてのカルシウム、マンガン、ケイ素、アルミニウム合金への添加
自動車 の点火装置 に用いられるバリウム-ニッケル 合金。
硫酸バリウムとしての用途
硫酸バリウム (BaSO4 ) は重晶石を粉砕して製造されるバライト粉と、硫化バリウムと硫酸ナトリウムとの複分解 によって製造される沈降性硫酸バリウムに大別される。
バライト粉は石油産業 において重要であり、新しい油井 やガス井を採掘するための掘穿泥水 (英語版 ) における加重剤 として用いられる。
沈降性硫酸バリウムの英語表記である「blanc fixe」は「永久の白」を意味するフランス語に由来しており、白色塗料として利用される。硫酸バリウムおよび硫酸亜鉛 からなる白色顔料 であるリトポン は良好な隠蔽力を有しており、硫化物 に曝されても黒変しない「永久の白」である。また、沈降性硫酸バリウムはゴルフボールなど様々なゴム製品の充填剤にも用いられる。
硫酸バリウムのナノ粒子はポリマーの物性を改良することができ、例えばエポキシ樹脂などに用いられる。
硫酸バリウムはまた、X線を透過しないという性質を利用してレントゲン の造影剤 としても利用される(バリウムがゆ (英語版 ) 、バリウム浣腸 (英語版 ) )。
その他の化合物の用途
炭酸バリウム が殺鼠剤 として用いられるようにBa2+ イオンは毒性を有している。硫酸塩は水に対する溶解度が非常に低いために問題とならないが、その他のバリウム化合物の用途は特定の分野に見られるのみである。
危険性
可溶性のバリウム化合物は有毒である。少量のバリウムは筋興奮薬として働くが、多量のバリウムは神経系 に影響をおよぼし、不整脈 や震え、筋力低下、不安 、呼吸困難 、麻痺 などを引き起こす。これは、神経系が適切に機能するために極めて重要なカリウムチャネル をバリウムが阻害することによる。また、バリウム化合物を含む粉塵を吸入した場合には肺で蓄積されてバリウム症 (英語版 ) と呼ばれる良性塵肺症を引き起こす。しかし、硫酸バリウム は水や胃酸 に対してほとんど溶解しないため経口摂取することが可能である。
他の重金属とは異なり一般にバリウムは生物濃縮 しないとされているが、トマトや大豆など一部の植物における生物濃縮の報告もされている。環境中のバリウムはウイルスや細菌、微生物などに対して影響を与え、ミジンコ に対する生殖障害などが報告されている。
このような毒性のため、日本では毒物及び劇物取締法 第二条七十九により硫酸バリウム およびバリウム=4-(5-クロロ-4-メチル-2-スルホナトフエニルアゾ)-3-ヒドロキシ-2-ナフトアート以外のバリウム化合物は劇物 に指定されている。PRTR法 では、バリウム及びその水溶性化合物が第一種指定化学物質として指定されていたが、2008年の政令改正により指定が解除された。また、EUでは地下水の保全に関する指令によってバリウムの排出には検査と許可が求められており、中国やマレーシア、タイ、シンガポールにおいてもバリウムの排水基準値や水質基準値が定められているが、日本においてはバリウムの排出に関するそのような基準は定められていない。欧州においては他にも、欧州玩具安全規格 EN71 part3における子供向け玩具のバリウムの溶出に関する規制が行われている。
脚注
注釈
↑ デービーは石灰を意味する「calcsis」の語尾に「-ium」を付けてカルシウムと命名した。
出典
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1 2 国立天文台 編, 『理科年表 第79冊』, p367 & 391, 丸善, 2005.
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