ジスプロシウム
外見
銀白色
一般特性
名称 , 記号 , 番号
ジスプロシウム, Dy, 66
分類
ランタノイド
族 , 周期 , ブロック
n/a , 6 , f
原子量
162.500
電子配置
[ Xe ] 4f10 6s2
電子殻
2, 8, 18, 28, 8, 2(画像 )
物理特性
相
固体
密度 (室温 付近)
8.540 g/cm3
融点 での液体密度
8.37 g/cm3
融点
1680 K , 1407 ° C , 2565 ° F
沸点
2840 K , 2562 ° C , 4653 ° F
融解熱
11.06 kJ/mol
蒸発熱
280 kJ/mol
熱容量
(25 ° C ) 27.7 J/(mol·K)
蒸気圧
圧力 (Pa)
1
10
100
1 k
10 k
100 k
温度 (K)
1378
1523
(1704)
(1954)
(2304)
(2831)
原子特性
酸化数
3 , 2(弱塩基性酸化物 )
電気陰性度
1.22(ポーリングの値)
イオン化エネルギー
第1: 573.0 kJ/mol
第2: 1130 kJ/mol
第3: 2200 kJ/mol
原子半径
178 pm
共有結合半径
192 ± 7 pm
その他
結晶構造
六方晶系
磁性
常磁性 (300 K)
電気抵抗率
(r.t. ) (α, poly) 926 nΩ ⋅ m
熱伝導率
(300 K) 10.7 W/(m⋅ K)
熱膨張率
(r.t. ) (α, poly) 9.9 μ m/(m⋅ K)
音の伝わる速さ (微細ロッド)
(20 ° C ) 2710 m/s
ヤング率
(α form) 61.4 GPa
剛性率
(α form) 24.7 GPa
体積弾性率
(α form) 40.5 GPa
ポアソン比
(α form) 0.247
ビッカース硬度
540 MPa
ブリネル硬度
500 MPa
CAS登録番号
7429-91-6
主な同位体
詳細はジスプロシウムの同位体 を参照
ジスプロシウム (英 : dysprosium [dɪsˈproʊziəm] 、ディスプロシウムとも言うことあり) は原子番号 66の元素 。元素記号 は Dy 。金属的な銀色の光沢を持つ希土類元素 である。単体として存在することはないが、ゼノタイム など様々な鉱物に含まれる。自然界に生じるジスプロシウムは7つの同位体 から構成され、最も多いのは164 Dyである。レアアース の一種。
1886年にポール・ボアボードラン により初めて同定されたが、1950年代にイオン交換 技術が開発されるまで純粋な形では単離されなかった。他の元素で代替できない用途は比較的少ない。熱中性子吸収断面積が高いため原子炉 の制御棒 に使用され、磁化率 が高いため(
χ
v
≈
5.44
×
10
−
3
{\displaystyle \chi _{v}\approx 5.44\times 10^{-3}}
)データ記憶の用途で使用され、Terfenol-D(磁歪材料)の成分として使用される。可溶性のジスプロシウム塩は軽度の毒性があるが、不溶性の塩は無毒であると考えられている。
特徴
物理的性質
ジスプロシウムの試料
ジスプロシウムは希土類元素 であり、金属の明るい銀色の光沢を持つ。非常に柔らかく、過度に熱することを避ければ火花を出すことなく加工することができる。物理的特性は少量の不純物でも大きな影響を受ける。
ジスプロシウムとホルミウム は、特に低温で元素の磁気強度が最も高い。85 K (−188.2 °C) 未満の温度で単純な強磁性 秩序を持つ。85 K (−188.2 °C) 以上では、らせん状の反強磁性 状態になり、特定の基底面 層のすべての原子モーメントが平行で隣接する層のモーメントに対して一定の角度で配向する。この異常な反強磁性は、179 K (−94 °C) で無秩序(常磁性 )状態に変わる。
化学的性質
ジスプロシウム金属は空気中でゆっくりと変色し、容易に燃焼して酸化ジスプロシウム(III) を形成する。
4 Dy + 3 O2 → 2 Dy2 O3
電気的にかなり陽性であり、冷水とゆっくりと(熱水とはかなり速く)反応して水酸化ジスプロシウムを形成する。
2 Dy (s) + 6 H2 O (l) → 2 Dy(OH)3 (aq) + 3 H2 (g)
ジスプロシウム金属は、200℃以上ですべてのハロゲンと激しく反応する。
2 Dy (s) + 3 F2 (g) → 2 DyF3 (s) [緑]
2 Dy (s) + 3 Cl2 (g) → 2 DyCl3 (s) [白]
2 Dy (s) + 3 Br2 (g) → 2 DyBr3 (s) [白]
2 Dy (s) + 3 I2 (g) → 2 DyI3 (s) [緑]
ジスプロシウムは希硫酸 に容易に溶解して、[Dy(OH2 )9 ]3+ 錯体として存在する黄色のDy(III)イオンを含む溶液を形成する。
2 Dy (s) + 3 H2 SO4 (aq) → 2 Dy3+ (aq) + 3 SO2− 4 (aq) + 3 H2 (g)
得られる化合物である硫酸ジスプロシウム(III)は、著しく常磁性である。
化合物
硫酸ジスプロシウム Dy2 (SO4 )3
DyF3 やDyBr3 などのハロゲン化ジスプロシウムは、黄色を帯びる傾向がある。酸化ジスプロシウム (ジスプロシア)は、酸化鉄よりも磁性の高い白色粉末である。
ジスプロシウムは高温でさまざまな非金属と結合し、さまざまな組成と酸化状態+3(場合によっては+2)の二元化合物を形成する。例えば、DyN, DyP, DyH2 とDyH3 ; DyS, DyS2 , Dy2 S3 とDy5 S7 ; DyB2 , DyB4 , DyB6 とDyB12 , Dy3 CとDy2 C3 。
炭酸ジスプロシウムDy2 (CO3 )3 と硫酸ジスプロシウムDy2 (SO4 )3 は、同様の反応から生じる。ほとんどのジスプロシウム化合物は水に溶解するが、炭酸ジスプロシウム四水和物(Dy2 (CO3 )3 ·4H2 O)とシュウ酸ジスプロシウム十水和物(Dy2 (C2 O4 )3 ·10H2 O)はどちらも水に不溶である。最も豊富な炭酸ジスプロシウムの2つ、Dy2 (CO3 )3 ·2–3H2 O(テンゲル石-(Y)に類似)とDyCO3 (OH)(弘三石-(La)と弘三石-(Nd))は、化学式Dy2 (CO3 )3 ·4H2 Oで表される整列されていない(アモルファス)前駆体相を介して形成されることが知られている。このアモルファスの前駆体は、周囲温度および高温での乾燥処理の下で非常に安定している、直径10-20nmの高く水和した球状ナノ粒子で構成される。
同位体
自然に生じるジスプロシウムは、7つの同位体 (156 Dy, 158 Dy, 160 Dy, 161 Dy, 162 Dy, 163 Dy, 164 Dy)からなる。これらはすべて安定していると考えられているが、理論的には156 Dyは半減期が1×1018 年を超えるアルファ崩壊 を起こす可能性がある。自然に生じる同位体のうち、164 Dyが28%と最も多く 、次いで多いのは162 Dyで26%である。最も少ないのは156 Dyで0.06%である。
原子質量が138から173までの範囲で29の放射性同位体 が合成されている。このうち最も安定しているのは154 Dyであり、半減期 はおよそ3× 10 6 年であり、次いで長いのは159 Dyで144.4日である。最も不安定であるのは138 Dyで、半減期は200ミリ秒である。一般的に、安定同位体よりも軽い同位体は主にβ+ 崩壊により崩壊する傾向があり、重い同位体はβ− 崩壊により崩壊する傾向がある。しかし、154 Dyは主にアルファ崩壊により崩壊し、152 Dyと159 Dyは主に電子捕獲 により崩壊する。ジスプロシウムには少なくとも11の準安定異性体 があり、原子質量は140から165までの範囲にある。これらの中で最も安定であるのは165m Dyであり、半減期は1.257分である。149 Dyには2つの準安定異性体があり、2番目の149m2 Dyの半減期は28ナノ秒である。
歴史
1878年、エルビウム 鉱石にホルミウム とツリウム の酸化物が含まれていることが分かった。1886年パリ でフランスの化学者ポール・ボアボードラン が酸化ホルミウム から酸化ジスプロシウムを分離した。彼はジスプロシウムを単離するために、まず酸化ジスプロシウムを酸に溶解し、次にアンモニアを加えて水酸化物を沈殿させる手順を行った。この手順を30回以上試みることで酸化物からジスプロシウムを単離することができた。単離に成功後、この元素をギリシア語で「近づき難い」を意味するδυσπρόσιτος (dysprositos)から、ジスプロシウムと名付けた。1950年代初頭にアイオワ州立大学 でフランク・スペディング (英語版 ) がイオン交換技術を開発するまで、比較的純粋な形で分離されなかった。
風力タービン用の永久磁石に使用されるため、ジスプロシウムは再生可能エネルギーの世界において地政学的競争の主要物の1つになるであろうと主張されてきた。しかし、この視点はほとんどの風力タービンが永久磁石を使用していないことを認識しておらず、生産拡大のための経済的インセンティブの力を過小評価していると批判されている。
2013年 、当時の一大生産拠点であった中華人民共和国 がレアアース の輸出制限を実施し、ジスプロシウムも価格が高騰。日本では対前年度比で10倍超となる3,500円/kgに迫る月も出た。翌年には1,000円/kg台へ下落したが、高騰を契機にジスプロシウムの使用量を抑えたモーターの製造などの技術革新が進んだ。このことを契機に、ベトナム やカザフスタン など中国以外の生産地調査が進められている。
2025年 4月、アメリカ合衆国 は、中国を含む対米貿易赤字 額が大きい国・地域に相互関税 を賦課すると発表。これに中国は、ジスプロシウムを含む7つの中・重希土類の輸出規制を通告して対抗した。
産出
ジスプロシウムは、主に様々なリン酸塩 の混合物であるモナズ石 から得られる。また、イットリウムの商業的抽出の副産物として得られる。ジスプロシウムを単離する際には、不要な金属の大部分を磁気的もしくは浮遊選鉱 により取り除くことができる。その後、イオン交換 置換過程により他の希土類金属から分離することができる。結果得られるジスプロシウムイオンはフッ素 または塩素 と反応してフッ化ジスプロシウムDyF3 または塩化ジスプロシウムDyCl3 が形成されうる。これらの化合物はカルシウムまたはリチウム金属のいずれかを使用して、以下の反応で還元することができる。
3 Ca + 2 DyF3 → 2 Dy + 3 CaF2
3 Li + DyCl3 → Dy + 3 LiCl
タンタル のるつぼに入れ、ヘリウム 雰囲気下で燃焼させる。反応が進行すると、得られるハロゲン化合物と溶融ジスプロシウムは密度の違いにより分離する。混合物が冷却されるとジスプロシウムが不純物から分離される。
ジスプロシウムは毎年世界中でおよそ100トンが産出され、その99%が中国で産出されている。価格は2003年の1ポンドあたり7ドルから2010年後半には1ポンド当たり130ドルとほぼ20倍になった。2011年には1キロあたり1,400ドルに上昇したが、2015年には240ドルに下落した。これは主に政府の制限を回避した中国での違法な産出が原因となっている。
現在、ジスプロシウムのほとんどは中国南部のイオン吸着性粘土鉱石から得られている。2018年 (2018-November )現在 [ update] 、西オーストラリア州 Halls Creekの南東160kmにあるBrowns Range Projectのパイロットプラントでは、年間50メトリックトン (49ロングトン) 産出されている。
アメリカ合衆国エネルギー省 によると、ジスプロシウムの現在の用途と予測される用途の幅の広さ及びただちに適切な代替がないことから、新興のクリーンエネルギー技術にとって最も重要な元素となっている。最も保守的な予測でさえも2015年までにジスプロシウムが不足すると予測している。2015年下半期時点でオーストラリアには新興の希土類(ジスプロシウム含む)抽出産業が存在する。
用途
ジスプロシウムはバナジウム などの元素とともにレーザー 材料や商用照明などに使用されている。ジスプロシウムは熱中性子 吸収断面積が大きいため、酸化ジスプロシウムニッケルサーメット は原子炉 の中性子吸収制御棒 に使用されている。ジスプロシウムカドミウム カルコゲン化物 は、赤外線 放射源であり、化学反応の研究に有用である。ジスプロシウムとその化合物は磁化に対して敏感であるため、ハードディスク などの各種データ保存用途に採用されている。電気自動車のモーターや風力発電機に使用される永久磁石としての需要が高まっている。
ネオジム 鉄ホウ素磁石 は、電気自動車の駆動モーターや風力タービンの発電機などの用途で保磁力 を高めるために、ネオジムの6%までをジスプロシウムに代替することができる。この代替には電気自動車1台当たり最大100gのジスプロシウムが必要となる。トヨタ自動車 が年間200万台を予測していることを基にすると、このような用途にジスプロシウムを使用した場合、利用可能な供給源がすぐに枯渇してしまう。また、ネオジム磁石の保磁力を高めるための添加物としての利用が急増しており、安定供給の確保に懸念が生じている。そのため、日本では経済産業省 主導の「希少金属代替材料開発プロジェクト」で希土類磁石に向けた使用量を2011年度までに現状から30 %低減、2012年度までに100%低減(代替)するための技術開発を目指すなどしていた。ジスプロシウムによる置換は磁石の耐食性を向上させることから他の用途にも役立つ可能性がある。
ジスプロシウムは、鉄、テルビウムとともにTerfenol-Dの成分の1つである。Terfenol-Dは既知の材料の中で最高の室温磁歪 を有しており、トランスデューサー 、広帯域力学的共振器 、高精度液体燃料噴射装置に採用されている。
ジスプロシウムは、電離放射線 を測定するための線量計 に使用されている。硫酸カルシウム やフッ化カルシウム の結晶にジスプロシウムがドープされている。これらの結晶に放射線を照射すると、ジスプロシウム原子が励起 されて発光 する。この発光を測定することで、線量計がどの程度の被爆を受けたかを決定することができる。
ジスプロシウムのナノファイバーは、強度が高く表面積が大きい。したがって、他の材料を補強したり触媒として機能するために使用される。酸化ジスプロシウムフッ化物のファイバーはDyBr3 とNaFの水溶液を450℃、450バール で17時間加熱することにより製造することができる。この材料は再溶解や凝集を起こさず、400℃を超える温度の様々な水溶液中で100時間以上残存するほど非常に強健である。
高輝度メタルハライドランプ には、ヨウ化ジスプロシウムと臭化ジスプロシウムが使用されている。これらの化合物はランプの高温中心付近で解離し単離ジスプロシウム原子を放出する。後者はスペクトルの緑と赤の部分の光を再放出し、これにより効果的に明るい光を生成する。
ジスプロシウムのいくつかの常磁性結晶塩(ジスプロシウムガリウムガーネット(DGG)、ジスプロシウムアルミニウムガーネット(DAG)、ジスプロシウム鉄ガーネット(DyIG))は、断熱消磁 冷却装置に使用されている。
3価のジスプロシウム(Dy3+ )のダウンシフト発光特性が研究されている。ジスプロシウムをドープしたイットリウム・アルミニウム・ガーネット (Dy:YAG)を電磁スペクトルの紫外線領域で励起すると、可視光領域のより長い波長の光子が放出される。このアイデアはUV励起白色発光ダイオードの新世代の基礎となっている。
注意点
多くの粉末と同様、ジスプロシウムの粉末は空気と混合した場合や着火源がある場合に爆発の危険性がある。ジスプロシウムの薄い箔は火花や静電気 によっても発火することがある。ジスプロシウムの火は水で消すことができない。水と反応して可燃性の水素 ガスを発生させることがあるが、塩化ジスプロシウムの火は水で消すことができる。フッ化ジスプロシウム、酸化ジスプロシウムは不燃性である。硝酸ジスプロシウム(Dy(NO3 )3 )は強力な酸化剤 であり、有機物と接触すると容易に発火する。
塩化ジスプロシウムや硝酸ジスプロシウムなどの可溶性のジスプロシウム塩は、摂取すると軽度の毒性を示す。塩化ジスプロシウムのマウスへの毒性から、ヒトにとって500グラム以上の摂取が致命的であると推定されている。不溶性の塩は無毒である。
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↑ Dierks, Steve (1995年12月). “Dysprosium Fluoride ”. Material Safety Data Sheets . Electronic Space Products International. 2015年9月22日時点のオリジナル よりアーカイブ。2008年11月7日閲覧。
↑ Dierks, Steve (1988年11月). “Dysprosium Oxide ”. Material Safety Data Sheets . Electronic Space Products International. 2015年9月22日時点のオリジナル よりアーカイブ。2008年11月7日閲覧。
外部リンク
ウィキメディア・コモンズには、
ジスプロシウム に関連するメディアがあります。
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