GLP-1とは、グルカゴン様ペプチド-1 (Glucagon-like peptide-1) の略。消化管ホルモンの一種で、消化管に入った炭水化物をはじめとする種々の栄養素を認識して消化管粘膜上皮から分泌される(詳細は「分泌」節を参照)。分泌されたGLP-1は膵臓のランゲルハンス島β細胞に作用して、インスリン分泌を介した血糖降下作用を示す。
GLP-1は腸管のL細胞から、摂取された栄養素に応じて分泌される。その分泌は、単糖類、ペプチド・アミノ酸、一価不飽和脂肪酸・多価不飽和脂肪酸、および短鎖脂肪酸に特異的に結合するGタンパク質共役受容体を介した直接的な栄養感知によって部分的に媒介されることが報告されている
タンパク質は最も満腹効果が高い栄養素とされ、その作用の一部はGLP-1などの食欲抑制性消化管ペプチドの分泌刺激によって媒介されると考えられている。摂取されたタンパク質は加水分解によりペプトン、トリペプチド、ジペプチド、アミノ酸に分解されてL細胞を刺激するが、タンパク質誘導性GLP-1分泌の詳細な分子機序や、最適な分解産物の特性については未解明な部分が多い。
発酵性食物繊維(β-グルカン、難消化性デンプンなど)は、大腸内で腸内細菌により発酵され、酢酸・プロピオン酸・酪酸などの短鎖脂肪酸(SCFA)を産生する。これらのSCFAは、L細胞に発現するFFAR2(GPR43)・FFAR3(GPR41)を介して細胞内カルシウム濃度を上昇させ、GLP-1分泌を刺激することが、マウスの結腸培養系を用いた研究で示されている。FFAR2を欠損したマウスでは、SCFA刺激によるGLP-1分泌や基底GLP-1量の低下が確認されており、FFAR2がL細胞機能の維持に関与する可能性が示唆されている。発酵性食物繊維は全粒穀物、豆類、野菜、果物などに多く含まれる。
一価不飽和脂肪酸や多価不飽和脂肪酸などの長鎖脂肪酸も、L細胞上の遊離脂肪酸受容体を介してGLP-1分泌を刺激することが報告されている。これらの栄養素を多く含む食品として、高繊維の穀物製品、ナッツ類、アボカド、卵などが挙げられ、GLP-1分泌への影響を介して健常者や2型糖尿病患者などの代謝指標に有益な影響を及ぼす可能性が指摘されている。
具体例として、シベリアマツなど一部の松の実に含まれる多価不飽和脂肪酸であるピノレン酸は、遊離脂肪酸受容体FFAR1およびFFAR4のアゴニストとして作用することが in vitro 研究で示されている。過体重女性を対象としたヒト試験では、松の実油由来の遊離脂肪酸の摂取により血中GLP-1濃度が上昇し、自覚的な空腹感が低下したことが報告されている。
これらの栄養素誘導性GLP-1分泌に関する知見の多くは、単回投与による急性効果や in vitro・動物実験に基づくものであり、長期的な食事介入によるGLP-1分泌の持続性や臨床アウトカムへの影響については、用量依存性や栄養素間の相乗効果も含めてさらなる検証が必要とされている。また、食事による分泌促進効果はセマグルチドなどのGLP-1受容体作動薬による薬理学的効果に比べて限定的であり、これらの薬剤の代替となるものではない。
中枢神経では、レプチン受容体を発現する延髄孤束核ニューロンにおいてGLP-1の産生が知られており、このニューロンが脳内における唯一のGLP-1産生ニューロンといわれている。さらにニューロンだけでなく、脳内免疫細胞であるミクログリアにおいてもGLP-1が産生されることから、脳内免疫に関与することが示唆されている。
GLP-1は、1983年にGraeme Bellによって同定された。1971年にJohn C. BrownやJill Dryburghによって同定されたGIP(glucose-dependent insulinotropic polypeptide)とともにインクレチンと呼ばれるが、これは1987年にジョエル・ハベナーやJens Juul Holstらが、GLP-1もインクレチンであることをつきとめたことによる。
1980年代、スヴェトラーナ・モイソフは、マサチューセッツ総合病院でGLP-1の同定に取り組んだ。当時、彼女は同病院のペプチド合成施設の責任者を務めていた。
GLP-qの特定の断片がインクレチンであるかどうかを確かめるため、モイソフはインクレチン抗体を作製し、その存在を追跡する方法を開発した。彼女は、GLP-1に含まれる31個のアミノ酸からなる領域がインクレチンであることを突き止めた。
さらにモイソフは、共同研究者のダニエル・J・ドラッカーおよびハベナーとともに、研究室で合成した少量のGLP-1がインスリン分泌を誘発できることを示した。
GLP-1は、膵臓からのインスリン分泌を促進するものなので、糖代謝に密接に関連する。分解酵素であるDPP-4(dipeptidyl peptidase-4)により速やかに不活化されるため、糖尿病治療としてDPP-4の阻害薬とGLP-1受容体作動薬が、世界中で用いられている。
腸管L細胞や脳などの産生細胞において、preproglucagonからGLP-1 (1-37)として切り出される。N-末端側のアミノ酸が切断され、GLP-1 (7-37)およびGLP-1 (7-36) amideとなり、これらが強い生理活性をもつ。これらの活性には、N-末端のヒスチジンが重要であり、DPP-4によってN-末端側の2つのアミノ酸が切断されたGLP-1 (9-36) amideは、アゴニスト活性を失って、むしろアンタゴニストとして働く。このDPP-4による代謝半減期は極めて短時間であるため、糖尿病治療薬として使用されるGLP-1受容体アゴニストはDPP-4により分解されにくいアミノ酸配列を持つ。
インスリン分泌促進作用のグルコース依存性・・・Meloniらの総説によくまとめられている doi: 10.1111/j.1463-1326.2012.01663.x。 GLP-1受容体アゴニストは、インスリン製剤などのような従来の糖尿病治療薬と比べて低血糖の副作用が現れにくい。この特性は、GLP-1によるインスリン分泌活性がグルコース濃度に依存して生じることに起因している。ラットのインスリノーマ細胞株を用いた初期のin vitro研究において、グルコース非存在下でのGLP-1 (10 nM)または10 mMグルコース単独処理で生じるインスリン分泌は、1.5~2.5倍程度であった。しかし、10mMのグルコース存在下で、GLP-1(10nM)を処理すると、ベースラインより約6倍のインスリン分泌が認められた。同様に、ラット膵臓において、基礎グルコース濃度(2.8 mmol/l)と比べて高いグルコース濃度(5 mmol/l)の際に、GLP-1は強力なインスリン分泌促進作用を示した。健康なヒトにおいても、空腹時のGLP-1投与は低血糖を起こさなかった。
このグルコース依存的な作用には、ATP感受性カリウムイオンチャネル (K+ATP)の閉鎖機構が関与している。K+ATPは、細胞内のATP/ADP比が上昇すると(細胞ATPが増加すると)閉鎖し、細胞を脱分極させる性質を持っている。膵臓β細胞において、K+ATPの閉鎖による脱分極は、インスリンの分泌をもたらすため、K+ATPを閉鎖させるスルホニル尿素薬は糖尿病治療薬として使用されている。GLP-1は細胞内cAMPを増加させ、それによって活性化したPKAがK+ATPの閉鎖を促進する。しかし、ADPの割合が高い低グルコースの条件下では、ADPがPKAのK+ATPに対する影響を減弱させるため、GLP-1が作用しないと考えられている。
GLP-1は、カイロミクロンの構成成分であるApoB48蛋白の腸管における生成を抑制する。カイロミクロンは、食物に由来する脂質を肝臓や末梢組織に運搬する役割を持つ。結果として、GLP-1によって中性脂肪の吸収は阻害される。
GLP-1は心臓に作用して、心房性ナトリウム利尿ペプチドを分泌させる。心房性ナトリウム利尿ペプチドは 腎臓に作用してナトリウムイオンの排泄を促進させるため、血圧が下降する。