病原性大腸菌

病原性大腸菌
大腸菌コロニーの走査型電子顕微鏡写真
分類
ドメイン : 細菌 – Bacteria
界 : 細菌 – Eubacteria
門 : プロテオバクテリア – Proteobacteria
綱 : ガンマプロテオバクテリア綱 – Gammaproteobacteria
目 : 腸内細菌科 – Enterobacteriales
科 : 腸内細菌科 – Enterobacteriaceae
属 : エスケリキア属 – Escherichia
種 : 大腸菌 – E. coli
学名
Escherichia coli
シノニム
Bacillus coli communis
英名
Pathogenic Escherichia coli

病原性大腸菌(びょうげんせいだいちょうきん)とは、特定の疾病を起こす大腸菌菌株の総称である。毒素原性大腸菌とも呼ばれる。細菌学的には、菌の表面にある抗原(O抗原とH抗原)に基づいて細かく分類される。このうち、O111 (O-111とも) やO157 (オーいちごーなな、O-157とも) の抗原を持つ菌株は、100人を超える規模の食中毒をたびたび発生させ先進国で問題となっており、メディアによる報道ではこの抗原名で呼称されている。

概要

大腸菌は通常病原性を持っていないが、病原因子をコードした遺伝子(病原性遺伝子)を獲得すると、病原性を持った大腸菌になる。病原性を持たない常在細菌の大腸菌と下痢原性大腸菌は、生化学的性状では区別できないため、下痢原性大腸菌の検査は毒素産生性の確認などの病原因子の検出が必要になる。血清型 O抗原とH抗原 の組合せで表現され、184種類のO抗原と53種類のH抗原が明らかになっている。保有している遺伝子により産生される毒素は異なるが、重篤な中毒症状を起こすベロ毒素が有名である。また、O157抗原を有する大腸菌が常にベロ毒素を産生するとは限らない。

細菌像

1996年に大阪府堺市で食中毒事例を発生させたO157の全遺伝子配列(ゲノム)は、宮崎大学の研究グループにより決定された。この解析結果によれば、非病原株(K-12)のゲノムサイズ 4.6 Mb に対し O157のゲノムサイズは 5.5 Mb である。しかし、4.1 Mb の領域の配列は同一で塩基レベルでは 98.3% の同一性を示している。O157に特異的に存在しているコード領域は、大腸菌自身から無規則に生じたものでは無く、菌外からもたらされた外来性DNAで、バクテリオファージと呼ばれる菌に感染するウイルスにより獲得したものである。

疫学

腸管内での病気の原因となる腸管内病原性大腸菌(下痢原性大腸菌)と、腸管外での病気の原因となる腸管外病原性大腸菌に大別される。腸管内病原性大腸菌は下記の6種類が知られているほか、出血性と凝集性のハイブリッドの存在も報告されている。

腸管内病原性大腸菌
主に小腸に感染して、下痢、腹痛、嘔吐、発熱等をおこす。症状はサルモネラ菌による急性胃腸炎に似ている。
赤痢菌のように大腸の細胞組織に侵入し、びらんや潰瘍を形成する。発熱、腹痛、下痢、粘血便など症状は細菌性赤痢と似ているが、赤痢菌やEHECと異なり、ベロ毒素(志賀毒素)は産生しない。
小腸に感染し、コレラのような激しい下痢や脱水症状をおこす。増殖の際、コレラ菌が産生するものと似たような毒素を産生する。
腸管外病原性大腸菌

注目されることとなった経緯

統計

厚生労働省が発表した統計年次別食中毒発生状況によれば、

年次別食中毒発生状況(病原大腸菌)
年次病原大腸菌腸管出血性大腸菌その他の病原大腸菌
1975年22----
1980年21----
1985年34----
1990年19----
1995年20----
1996年179----
1997年176----
1998年28516269
1999年2458237
2000年21916203
2001年22324199
2002年971384
2003年471235
2004年451827
2005年492425
2006年432419
2007年362511
2008年291712
2009年362610
2010年35278
2011年492524
2012年21165
2013年241311
2014年28253
2015年23176
2016年20146
2017年281711
2018年40328

1996年以降に発生した集団食中毒事件による死者数で、死者が最も多かったのは2002年に栃木県宇都宮市の病院・高齢者施設で発生した事件の死者9人。2番目に多かったのは、北海道の岩井食品による白菜漬けの食中毒事件による死者8人、次いで2011年に石川県のフーズ・フォーラスが経営する焼肉店で発生したユッケ集団食中毒事件の死者5人となっている。

感染対策

ジビエ、ブタ、ウシなどの家畜やニワトリなど家禽類の糞便や肥育農場から飛来するハエからも検出され、食品が汚染されることが多い。感染している牛は無症状である。汚染防止のため食肉生産および加工の現場では多くの汚染防止対策が取られている。環境中での生存期間が長く、堆肥中で21ヶ月生存したとの報告があるほか、レタスなどの葉に付着後は2週間程度生存している。また、8℃以下ではほとんど増殖しないが、12℃では3日間で100倍に増殖したとの報告がある。

腸管出血性大腸菌に対する特有の予防法は無く、一般的な食中毒の予防方法と同様である。

  1. 調理の前、食事の前、牧場などで動物や柵、砂や土を触った後は、必ず手を洗う。
  2. 野菜等を生で食べるときには、よく洗う。
  3. 食材は食べる直前まで十分に(8℃以下)冷やしておく。
  4. 食器(箸)は未加熱食材用と加熱済み用を分ける。
  5. 加熱に弱い菌であるため、肉を使用する食品は、その中心温度を75℃以上且つ1分以上の加熱をする。
  6. 調理した食品は、できるだけ速やかに食べる。
  7. 調理器具の洗浄、消毒を十分に行う。
  8. 水道水以外の水(飲用の井戸水など)は煮沸するなど、消毒してから使う。

などが、食中毒を防ぐために有効である。

しかし、既に食品中に蓄積された毒素は100℃ 30分間の加熱では分解されないため、加熱は食中毒の対策にはならない。[要出典]

脚注

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出典

  1. ↑ 竹田美文、「腸炎ビブリオ・毒素原性大腸菌・腸管出血性大腸菌・コレラ菌 (PDF) 」 モダンメディア 2012年10月号(第58巻10号)
  2. 1 2 O抗原とは 国立感染症研究所
  3. ↑ 林哲也、戸邉亨、「病原性大腸菌」 化学と生物 Vol.42 (2004) No.11 P.758-764, doi:10.1271/kagakutoseibutsu1962.42.758
  4. 1 2 下痢原性大腸菌の検査法 (PDF) 千葉県感染症情報センター
  5. 1 2 林哲也:ゲノム解析から見た大腸菌ゲノムの可塑性 環境変異原研究 Vol.27 (2005) No.2 P.117-118, doi:10.3123/jems.27.117
  6. 1 2 3 山崎伸二、密接にかかわる腸管出血性大腸菌の病原性と生存戦略—ドイツの腸管出血性大腸菌O104食中毒から見えてきたこと 日本食品微生物学会雑誌 Vol.31 (2014) No.3 p.139-143, doi:10.5803/jsfm.31.139
  7. ↑ 下痢原性大腸菌感染症 国立感染症研究所 2000年第50週(12月11日~12月17日)掲載
  8. ↑ 山本新吾、尿路病原性大腸菌における病原因子の研究 日本細菌学雑誌 Vol.58 (2003) No.2 P.431-439, doi:10.3412/jsb.58.431
  9. ↑ 加藤廉平ほか、Levofloxacin 耐性大腸菌により経直腸的前立腺生検後に敗血症ショックに陥った1例 泌尿器科紀要 56巻8号 p.453-456, hdl:2433/123563
  10. 1 2 3 病原性大腸菌 (PDF) 食品安全委員会
  11. ↑ “正しく知ろう 腸管出血性大腸菌O157”. 横浜市栄区ホームページ (2011年2月14日). 2018年9月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年9月20日閲覧。
  12. 1 2 「<特集>腸管出血性大腸菌O157:H7の集団発生、1996」『The Topic of This Month』第17巻第8号、1996年、2019年7月11日閲覧。
  13. ↑ 腸管出血性大腸菌O157:H7による集団発生例
  14. ↑ 腸管出血性大腸菌O157等による食中毒 厚生労働省
  15. ↑ 食中毒事件一覧速報 厚生労働省
  16. 1 2 “女児死亡も漬物が原因 O157の遺伝子型一致 集団食中毒で死者6人/北海道”. 朝日新聞(朝刊、北海道総合). 2012年8月17日. p. 24. - 聞蔵IIビジュアルにて2013年3月21日閲覧。
  17. ↑ “病院および老人保健施設で発生した腸管出血性大腸菌O157による集団食中毒事例-宇都宮市” (日本語). IASR Vol.23 No.12 December 2002. 国立感染症研究所 (2002年12月). 2013年4月6日閲覧。
  18. ↑ “浅漬け業者9割、衛生管理に不備 自治体が改善指導”. 朝日新聞(朝刊、3社会). 2012年11月17日. p. 37. - 聞蔵IIビジュアルにて2013年3月21日閲覧。
  19. ↑ 壁谷英則、佐藤真伍、丸山総一、野生動物の食用利用と人獣共通感染症 『日本獣医師会雑誌』 Vol.69 (2016) No.5 p.277-283, doi:10.12935/jvma.69.277
  20. 1 2 伊藤均, Harsojo、「食肉中での大腸菌O157: H7の放射線殺菌効果」 食品照射 1998年 33巻 1-2号 p.29-32, doi:10.5986/jrafi.33.29
  21. ↑ 伊藤武, 甲斐明美、「腸管出血性大腸菌O157感染症と食品」 食品衛生学雑誌 1997年 38巻 5号 p.275-285, doi:10.3358/shokueishi.38.5_275
  22. ↑ “O157等腸管出血性大腸菌感染症に注意しましょう”. 千葉県 (2018年6月19日). 2019年7月11日閲覧。

参考文献

関連項目

外部リンク