Raspberry Pi
Raspberry Pi(ラズベリー パイ)は、ARMプロセッサを搭載したシングルボードコンピュータ。イギリスのRaspberry Pi 財団(非営利組織)とRaspberry Pi Ltd(営利組織)によって開発されている。日本語では略称としてラズパイとも呼ばれる。
2012年の立ち上げ当初は教育で利用されることを想定して制作された。IoTが隆盛した2010年代後半以降は、安価に入手できるシングルボードコンピュータとして趣味や業務(試作品の開発)等としても用いられるようになった。その後 Raspberry Pi Compute Module を商品に組み込む用途まで広がっていき、2023年は売上の72%が産業・組み込み市場となっている。
概要
Raspberry Piは、かつてイギリスで教育用コンピュータとして普及したエイコーン社の「BBC Micro(1981年)」の再来として、学校で基本的なコンピュータ科学の教育を促進することを意図している。Model A、Model Bという名称もBBC Microに由来しており、サポートされるコンピュータ言語の中にはBBC Microで利用されたBBC Basicも含まれている。
ハードウェア的にはエイコーン社のCPU部門(Acorn RISC Machine、略してARM)が独立したARM社の開発するARMプロセッサを搭載している。また、エイコーンのオペレーティングシステム (OS) であるRISC OSも、Raspberry Pi用がRISC OS Open Limitedより公式リリースされている。 内蔵ハードディスクやソリッドステートドライブを搭載しない代わりに、SDメモリーカード(SDカード)またはmicroSDメモリーカード (microSD Card) を起動および長期保存用ストレージに利用する。
STEM教育の一環として本製品以外にも、ArduinoやIchigoJam、M5Stack、Obnizなどが見られる。
出荷台数

2012年2月29日発売からの累計出荷台数は2013年10月31日までで200万台、2014年6月11日までで300万台、2015年2月18日までで500万台、2015年10月13日までで700万台、2016年2月29日までで800万台、2016年9月8日までで1,000万台、2016年11月25日までで1,100万台と、年間約230万台のペースであった。
その後、累計出荷台数は、ペースが上がり、2018年3月14日までで1,900万台、 2019年12月14日までで3,000万台、 2021年1月21日までで3,700万台と 年間約600万台強の直線的な増加を記録した。
その後、累計出荷台数は、2021年5月12日までで4,000万台 、2021年9月22日までで4,200万台 、2021年11月16日までで4,300万台 、出荷開始からちょうど10年間経過の2022年2月28日までで4,600万台 を記録。
2021年10月20日、世界的な半導体不足により、Raspberry Pi の供給不足および一時的な値上げを発表。2022年4月4日、再度、供給不足の状況を説明し、商品に組み込んでいるなど産業用で必要な企業を、家庭用よりも優先すると発表。2022年12月12日、2023年第2四半期から生産数が回復し、2023年第3四半期から在庫がある状態に戻る見通しであると述べた。2023年6月1日、2023年7月から月産100万台に回復できる見通しであると報道された。
2023年1月3日までで5,000万台、 2023年10月9日までで5,500万台、 2024年5月15日までで6,000万台。
製造企業
ハードウェアの設計は英国Raspberry Pi Ltdが行い、製造はRaspberry Pi Ltd自身と、Raspberry Pi Ltdから製造権を供与されたelement14(Premier Farnell社)が担当している(2022年まではRSコンポーネンツ社も製造を任されていたが、2022年にRaspberry Pi Ltdより契約を解除された)。この2社から製品の供給を受けた各国のリセラー(日本ではBAKS、スイッチサイエンス、DigiKey、KSY、Mouser Electronicsの5社)によって製品が販売される。いずれのメーカーも実際の製造はソニーグローバルマニュファクチャリング&オペレーションズ社に委託されている。2022年現在、ほとんどの製品が英国内の工場(ソニーペンコイド工場、ウェールズ)で製造されているが、日本向けモデルの一部は日本国内の工場(ソニー稲沢テック、愛知県)で製造されている。2021年現在はRaspberry Pi Picoを稲沢テックで製造中。
ハードウェア
Model A, Model B
Model A, Model B はクレジットカードと同程度(Model A は長辺方向がクレジットカードの5分の4程度)の大きさ。Model A の方が価格が安い。Model A, Model B には USB をはじめとして、様々な端子が取り付けられている。
なお、Raspberry Pi 3は64ビットに対応した初のモデルだが、Raspberry Pi 4の発売まで公式OSであるRaspbianは32ビット版しかリリースされていなかった。
キーボード一体型
2020年11月2日、キーボード一体型のRaspberry Pi 400を発表。キーボードの配列はJP/US/UKの3種。性能はRaspberry Pi 4 Model Bとほぼ同じだが、メモリは4GBのみで、CPUクロックは1.8GHz(4Bもオーバークロックは可能)。
2024年12月9日、Raspberry Pi 500を発表。メモリ8GBのRaspberry Pi 5を内蔵。価格は$90。
Zero
Zero は Model A, Model B よりも小型で安価で端子の数が少ない。W は無線搭載、H はピンヘッダが実装済み。
Compute Module
Compute Module は産業用の組み込み向け。端子などは付いていないが、開発用には Compute Module IO Board が販売されていて、ボードには端子が取り付けられていて、ボードに Compute Module を挿して使用する。端子の種類が異なるサードパーティーのボードも多数ある。
端子の有無を除くと Compute Module 4 は Raspberry Pi 4 Model B とほぼ同じだが、USB 3.0 ではなく PCIe が搭載されていて、サードパーティーのボードによってはこれを M.2 にしていて、SSD やモバイル通信のモジュールやAIアクセラレータなどを挿せる。
産業用ではあるものの、1個単位で個人でも購入できる。
Pico
2021年1月21日、マイコンボードの Raspberry Pi Pico を発表。価格は$4。デュアルコアの Arm Cortex M0+ プロセッサ(最大 133 MHz で動作)、2MBのフラッシュメモリを搭載し、26のGPIOピンを備えている。通常のRaspberry Piシリーズがシングルボードコンピュータであるのに対して、Picoはマイクロコントローラである。
2022年6月30日、ピンヘッダを実装済みの Raspberry Pi Pico H、無線接続が可能な Raspberry Pi Pico W、その両方の Raspberry Pi Pico WH を発表。Hが$5、Wが$6、WHが$7。
2024年8月8日、Raspberry Pi Pico 2 を発表。価格は$5。CPUはArm Cortex-M33 2コア 150MHz。メモリは520KBのSRAM。
2024年11月25日、Raspberry Pi Pico 2 Wを発表。価格は$7。IEEE 802.11nとBluetooth 5.2対応。
カメラ
以下の Raspberry Pi 用のカメラを販売している。今のところ全て MIPI CSI 2レーン用のカメラである(4レーンでも動作する)。
- Raspberry Pi Camera Module v1 - 2013年5月発売、販売終了済み。5メガピクセル。$25。NoIR の赤外線カメラあり。フォーカスは固定。
- Raspberry Pi Camera Module 2 - 2016年4月発売、2028年1月販売終了。8メガピクセル。$25。NoIR の赤外線カメラあり。動画の最大解像度は1080p30。フォーカスは手動。
- Raspberry Pi Camera Module 3 - 2023年1月発売、2030年1月販売終了。11.9メガピクセル。$25、$35(Wide)。NoIR の赤外線カメラ、Wide、Wide NoIR がある。wideでない方は水平視野角が66度、wideは水平視野角が102度。オートフォーカス対応。HDR対応。
- Raspberry Pi High Quality Camera - 2020年5月発売、2030年1月販売終了。12.3メガピクセル。$50。C/CS か M12 マウントのレンズを別途取り付けて使用する。フォーカスは手動。
- Raspberry Pi Global Shutter Camera - 2023年3月発売、2032年1月販売終了。1.58メガピクセル。$50。グローバルシャッターにより、動く物体を綺麗に撮影することが出来、人工知能による画像認識などに適している。C/CS マウントのレンズを別途取り付けて使用する。フォーカスは手動。
- Raspberry Pi AI Camera - 2024年9月発売、2028年1月販売終了。12.3メガピクセル。$70。AIアクセラレータを搭載したソニーのIMX500を採用。
High Quality Camera や Global Shutter Camera 用のレンズとして以下のものがある。
- C/CS マウント
- 16mm 望遠 $50
- 6mm 広角 $25
- M12 マウント
- 8mm $25
- 25mm (望遠) $15
- 魚眼 $25
公式以外にも様々なカメラとレンズがサードパーティーから販売されている。
Python 用のライブラリとして picamera があったが、現在は Raspberry Pi Ltd が picamera2 を開発している。
HAT
HAT は Hardware Attached on Top の略で、GPIO の所に載せるアドオンボードのこと。2023年に後継の HAT+ が制定された。以下の HAT や HAT+ が販売されている。
- Raspberry Pi M.2 HAT+ - Raspberry Pi 5 用で PCIe 2.0 1レーンの M.2 を利用可能にする。形状は 2230 と 2242 に対応。
- Raspberry Pi SSD Kit - Raspberry Pi M.2 HAT+ と SSD をセットにした物。PCIe 3.0 (8Gbps) にも対応するが、SSDの方が速く、PCIeが速度のボトルネックになっている。
- AIアクセラレータ
- Raspberry Pi AI Kit - M.2 形式の Hailo-8L を使用したAIアクセラレータ。Raspberry Pi M.2 HAT+ を同梱していて併用して使用する。Hailo 側から発売されている M.2 形式の Hailo-8 も Raspberry Pi では動作する。Raspberry Pi AI HAT+ 発売以降は M.2 を経由しない Raspberry Pi AI HAT+ の方を推奨している。
- Raspberry Pi AI HAT+ - 同じく Hailo のAIアクセラレータだが、M.2 を経由せずに直接 PCIe で接続するもの。通常の PCIe 2.0 (5Gbps) ではなく、PCIe 3.0 (8Gbps) を使用する。Hailo-8L (13 TOPS, $70) と Hailo-8 (26 TOPS, $110) の2種類が発売されている。同時期の競合商品として NVIDIA Jetson Nano Super 開発者キット (密行列33TOPS, $249) がある。
- Raspberry Pi Build HAT - Lego Technic モーターとセンサーを接続するための HAT
- Sense HAT - 加速度・気温・気圧・湿度などの様々なセンサー、8×8 RGB LED、ジョイスティックなどを搭載
- Power over Ethernet
- PoE HAT (販売終了)
- PoE+ HAT - Raspberry Pi 3 B+ および 4 用
- オーディオ関係
- Raspberry Pi DAC+
- Raspberry Pi DAC Pro
- Raspberry Pi DigiAMP+
- Raspberry Pi Codec Zero
- Raspberry Pi TV HAT - DVB-T2 用。日本では DVB-T2 は使われていない。
公式以外にも様々な HAT がサードパーティーから販売されている。
注釈
ギャラリー
- Raspberry Pi 1 Model B(初代)
- Raspberry Pi Zero v1.3
- I/Oボードに取り付けられたCompute Module
- Raspberry Pi向け液晶モジュールの一例
- Raspberry Pi 3 B+
- Raspberry Pi 4 B TV HAT
- Raspberry Pi 5
ソフトウェア
オペレーティングシステム
2012年2月19日、ラズベリーパイ財団はSDカードから起動できるオペレーティングシステムのSDカードイメージを発表した。イメージに含まれるOSのRaspberry Pi OS(旧称:Raspbian)は"Debian GNU/Linux release 8.0 (Jessie)"に基づいており、LXDEデスクトップ環境とChromiumウェブブラウザ に加えて、様々なプログラミングツールを初起動直後使用できる。また、このOSはRaspberry Pi だけでなく様々な他のプラットフォーム上でエミュレートできるように QEMU 上で実行できる。この他、Arch LinuxとFedora、Ubuntu MATEなどもサポートされている。
ラズベリーパイ財団は、その後、カナダのセネカカレッジで開発された Fedora バージョンをリリースする予定。財団は、プログラムをやりとりするためのアプリケーションストアを開設予定。
Raspberry Pi OSは標準でソフトリアルタイムシステムとなっているが、ユーザーモードプログラムでのハードリアルタイム性能が必要な場合はlinux-rtカーネルを入れることもできる。また、ベアメタル(OS無し)で使用することも可能。
Mathematica
2013年11月21日、Raspberry Pi Foundationは、数式処理ソフトである Mathematicaのサブセット版及びその記述言語であるWolframをRaspberry Piの標準イメージ環境であるRaspberry Pi OSに向けて無償提供することを発表した。Raspberry Pi 1の性能から、2013年現在の典型的なパソコン上で動作させた場合と比較して、10〜20倍遅いとしている。Remote Development Kitを使い、コーディング等を行う外部コンピュータと、実際にMathematicaを実行するRaspberry Piを接続するインタフェースが提供されている。GPIO を使えるなど専用の命令も用意されている。2014年8月1日より、Mathematica 10 を提供開始。
脚注
関連項目
外部リンク
公式サイト
非公式サイト
- RPi Hub - eLinux.org