SFPトランシーバ
SFPトランシーバは、一対の光ファイバーケーブルに接続できる
SFPトランシーバ (small form-factor pluggable transceiver)は、基板上の電気信号と光ファイバ 上の光信号を相互に変換する光トランシーバ モジュールの一つ。小型で活線挿抜 が可能であり、光通信 をサポートするネットワーク機器 (英語版 ) に搭載して使用される。同様の挿抜モジュールであるQSFP (quad SFP)およびOSFP (octal SFP)についても本項で記載する。
概要
利用
SFPトランシーバには様々な送受仕様がある。モジュールの仕様によってマルチモードファイバ 、シングルモードファイバ 、ツイストペアケーブル 、同軸ケーブル などの伝送媒体を必要な距離長および伝送速度で接続可能であり、ユーザは各リンクに適切なトランシーバを選択することができる。
SFPスロットを2つ(右端)備えたイーサネットスイッチ
SFPスロットを2つ備えたネットワークカード
ネットワーク機器にあるSFPポートはモジュラスロットであり、ここにSFPを挿し込むことで、SFPが対応する伝送媒体(光ケーブル、場合によっては銅線ケーブル)を接続することができる。主にSONET ・イーサネット ・ファイバーチャネル ・PON などの通信規格に対応している。
SFPスロットは、スイッチングハブ 、ルータ 、ファイアウォール 、ネットワークカード などについている。ストレージインタフェースカード(HBAやファイバチャネルストレージスイッチと呼ばれる)もこれらのモジュールを使用し、2Gb、4Gb、8Gbなどの様々な速度に対応する。SFPは安価・小型であり、様々なタイプの光ファイバー接続を提供することから、このような機器の柔軟性を高める。
標準化
SFP・QSFPは公式の標準化団体では標準化されていないが、SNIA (ストレージネットワーク産業協会)の後援の下にマルチソースアグリーメント (MSA, メーカー間による規格合意)によってそのフォームファクタ や電気インタフェイス 仕様が規定されている。SFPは、多くのネットワーク製品メーカーによって共同開発されサポートされている一般的な業界フォーマットである。
ただし、実際問題として、一部のネットワーク機器では自社の純正SFP以外は使えないようにするベンダーロックイン を起こしているものがある。機器側ファームウェア がSFP内蔵メモリ(EEPROM )に記録されたベンダーIDを識別して、同じブランドのIDのSFPのみを受け入れるようにベンダー独自のチェックを追加しており、機器の動作を制限している。これに対抗するために、サードパーティ製の互換SFPではベンダーIDを書き換え可能な空の内蔵メモリを備えたものが販売されている。このような互換SFPは一般に純正SFPより安価であるため大きな需要がある。
種類
SFP
様々なSFP
SFPはもともと1Gbps光通信用に設計されたトランシーバで、従来1Gbps通信で使われていたGBIC を元にして小型化したため、GBICに代わって広く普及した。この経緯から一時期Mini-GBICとも呼ばれたが、この名称はMSAで正式に定義されたものではない。以下にSFP仕様を規定しているMSA規格を示す。
機構仕様: SFF-8432 および SFF-8071
電気的仕様: SFF-8418 および SFF-8419
管理機能仕様: SFF-8472
伝送速度
SFPは基板上バスの速度向上に応じて下表のような派生モジュールがある。いずれも仕様が共通化されているため、機器メーカーはSFPポート設計の一部を再利用することができる。また、例えばSFP+とSFP28の共用ポートなど、異なる伝送速度仕様を持つモジュールのいずれも挿すことができるスロット設計も可能となっており、一部のルータやスイッチングハブでは100MbE 、1GbE 、10GbE にそれぞれ対応した3種のSFP/SFP+を自動判別して動作切替するものがある。
SFP派生モジュールの比較
名称
伝送速度
MSA初版
光ポート主用途
基板配線
備考
SFP 1 Gbpsなど
2001-05-01
GbE , 100MbE 1GFC, 2GFC, 4GFC OC-3 OTN OTU1
20ピン
MSAには記載されていないが、最大5 Gbpsの通信が可能。
SFP+ (SFP10) (SFP16) 10 Gbps 16 Gbpsなど
2009-07-06
10GbE 8GFC, 16GFC OC-192 OTN OTU2
20ピン
初版仕様は2006年5月9日に公開され、2009年7月6日に採択された。従来の10 Gbps通信の主流であったXENPAK やXFPトランシーバ に代わって広く使われる。
SFP28 25 Gbps
2014-09-13
25GbE
20ピン
基板上バスは25 Gbps通信の符号化における付加ビットを加味して28 Gbpsで動作する。伝送媒体はSMF , MMF , AOC, DACなど。
SFP56 50 Gbps
2019-07-18
50GbE
20ピン
NRZ の代わりにPAM4 を使用し、SFP28と同様の仕様で28 Gbaud 動作バスによる56 Gbps通信を実現したもの。SFP-DDから逆輸入する形で仕様追加された。
SFP-DD 100 Gbps〜
2019-04-10 (SFP-DD MSA)
100GbE , 200GbE
40ピン
"DD"は倍密度(double density)を意味する。機器側には40ピンコネクタで接続し、2並列の送受信バスを実装している。ピン配置はSFP+/SFP28との後方互換性が考慮されている。
通信ポートの拡張
前面の光ファイバ接続インタフェイスを拡張したSFPとして以下のものがある。
100M SFP - 1Gbps通信用に開発されたSFPを旧来の100Mbps光通信に流用したもの。FTTx 用途で100BASE-FX 接続などに用いる。
ダイレクトアタッチケーブル
ダイレクトアタッチケーブル (DAC , direct attach cable) - SFPコネクタがケーブルの両端に備え付けてあるもの。2つの機器のSFPポートを電気的に直接接続するために主に10Gbps以上の通信 で用いる。パッシブ(最大7m程度)、アクティブ(最大15m程度)、AOC (active optical cable, 最大100m程度)などの種類がある。
cSFP (compact SFP) - 独立した1芯双方向の光ファイバポートを2ポート設けたもの。主にポート密度を高め、ポートあたりのファイバ使用量を減らすために用いる。
光学特性
光通信用のSFPでは、主に短距離用にマルチモードファイバ 、長距離用にシングルモードファイバ を用いて様々な構成で接続可能なものがある。特に接続距離長や光源 波長 の仕様種別は、100Mbps・1Gbps通信用途のものではSX・LX・EX・ZX・BXなど、10Gbps以上の通信用途のものではSR・LR・ER・ZRなどとして表現され、これらの一部はイーサネット の規格名称にもなっている。
1Gbps光通信用途の主要なSFPの一覧
名称 ファイバ コネクタ レバー色 波長 距離長 備考
SX MMF LC 黒またはベージュ 850nm 550m 主に1000BASE-SX ・1GFC 用途。距離長を短くして2GFC・4GFC など高い通信速度に対応したものもある。
SX+/MX/LSX (メーカにより異なる)MMF LC 黒/青 1310nm 2km SXや100BASE-FX とは互換性がない。LXをベースにしているが、LXをマルチモードに適応させるために一般的に使用されているモード調整ケーブルではなく、標準のマルチモードパッチケーブルを使用してマルチモードファイバで動作するように設計されている。
LX SMF LC 青
1310nm 10km 規格上は1000BASE-LX は5km、1000BASE-LX10 は10km。
EX
SMF LC 青/緑
1310nm/1550nm 40km
XD SMF LC 青/緑 1550nm 50km
ZX
SMF LC 青/緑
1550nm 80km 距離長はファイバー伝送損失に依存。
EZX
SMF LC 青/緑
1550nm 160km 距離長はファイバー伝送損失に依存。
BX
SMF SC または LC 紫/青
1490nm/1310nm (1芯双方向) 10km 規格名称は1000BASE-BX10 。アップリンクとダウンリンク用にそれぞれの波長をBX-U とBX-D としてペアで使用する。一方向に1550nmを使用したものや距離長を80kmにした高出力製品もある。
SFSW SMF SC または LC - (1芯双方向) - 1本のファイバに1つの波長(single fiber single wavelength)を用いて双方向トラフィックを構成する。同一波長帯の中でわずかに異なる2波長を使うことで送受信号を分離している。ポート密度を高め、ファイバ使用数を減らすために用いる。
CWDM ・DWDM SMF LC 茶赤橙黄緑青紫灰 1270〜1610nm 1514〜1577nm (190〜198THz) 40km, 80km, 120km など 様々な距離長・波長で用いられる。
OC-3 SFPの内部。上部の金属製キャニスターは送信用レーザーダイオード 、下部のプラスチック製キャニスターは受信用フォトダイオード である。
10Gbps通信用のSFP+は、XENPAK などの従来モジュールと比べると、一般にモジュール内よりも機器側の回路実装を多くすることで小型化を実現している。XENPAKポートやX2ポートを備えた古い機器でもSFP+を使うことができる変換アダプタがある。
SFP内蔵の受光回路には光検出器としてフォトダイオード が用いられ、増幅部にはリミッティングタイプまたはリニアタイプのものがある。多くはリミッティングアンプにより劣化した受信信号を整形している。リニアタイプは主に10GBASE-LRM などの低帯域幅規格において機器側で分散補償(EDC)の処理を行う構成での使用が意図されている。
100GBASE-LR4 QSFP28
QSFP
QSFP (quad SFP)は、4並列伝送(4レーン動作)を可能にした光トランシーバ。SFPよりもわずかに大きい。
QSFPには下表のような派生モジュールがあり、MSA規格にて仕様が共通化されている。
機構仕様: SFF-8661およびSFF-8683
電気的仕様: SFF-8679
管理機能仕様: SFF-8636
OSFP
OSFP (octal SFP)は、8並列伝送(8レーン動作)を可能にした光トランシーバ。QSFPよりもサイズが大きく、出力電力も大きい。機器側の基板上バスには60ピンコネクタで接続する。MSAグループは2016年に発表され、2021年公開の4.0版では1レーンあたり100Gbps動作する基板上バスを用いて800Gbps通信に対応している。
2022年には800Gbps対応モジュールがリリースされている。今後はQSFPと下位互換性を持つアダプタも登場するものと見込まれている。
機械的構造
前面コネクタ
LCコネクタを持つSFPモジュールの正面。青いレバー色は、シングルモードファイバ用であることを示す。
MPOコネクタを持つQSFPモジュールの正面
Twinaxケーブルが接続されたQSFPダイレクトアタッチケーブル
光ファイバを接続できるトランシーバでは一般に、前面に2つのLCコネクタが付いている。1つは送信用、もう1つは受信用である。このほか、1芯双方向の光ファイバを接続できるSCコネクタのものや、100Gbps通信用に12芯・16芯光ファイバ並列接続可能なMPO (multi-fiber push-on)コネクタが備えられたものもある。
ツイストペアケーブル が接続可能なSFPではRJ-45 ポートがある。またダイレクトアタッチケーブルでは、前面ポートにあたる部分に直接Twinax (2芯同軸 )ケーブルが接続されている。
SFPモジュールの側面・底面。レバーの操作で底面の取付金具がスライドする。長さは6cm。
SFPの機器搭載時はスロットケージの爪でロックが掛かるようになっており、取り外しの際にはレバーを引いてロックを解除する機構が設けられている。このレバー色はファイバ種別を表しており、マルチモードファイバ では黒またはベージュ、シングルモードファイバ では青のレバー色規定があるが、1550nm波長のものを緑や黄色で表すベンダ拡張実装が多い。
寸法
SFP、QSFP、OSFPの順で大きくなっている。
寸法
SFP
QSFP
OSFP
高さ
8.5mm
8.5mm
13.0mm
幅
13.4mm
18.35mm
22.58mm
奥行き
56.5mm
72.0mm
100.4mm
電気インタフェイス
ピン配置
SFP・QSFPには機器側の基板と接続するためのプリント基板 が含まれ、モジュラスロット内部にあるコネクタと嵌合する。SFPでは20ピンコネクタ、QSFPでは38ピンコネクタが用いられており、電気インターフェイスは以下のようなピン割当が規定されている。
SFPの基板上バス入出力
ピン
名称
機能
1
VeeT
接地 (送信機)
2
TxFault
送信障害表示
3
TxDisable
HI入力時に光送信の無効化
4
SDA
2線シリアルバス のデータ
5
SDC
2線シリアルバス のクロック
6
MOD_ABS
モジュールの存在を示す(内部で接地)
7
RateSelect
レート選択設定
8
LOS
受信障害表示(受信強度が最小感度未満)
9
VeeR
接地 (受信機)
10
VeeR
接地 (受信機)
11
VeeR
接地 (受信機)
12
RD-
受信データ
13
RD+
受信データ
14
VeeR
接地 (受信機)
15
VccR
+3.3V電源 (受信機, max. 300mA)
16
VccT
+3.3V電源 (送信機, max. 300mA)
17
VeeT
接地 (送信機)
18
TD+
送信データ
19
TD-
送信データ
20
VeeT
接地 (送信機)
QSFPの基板上バス入出力
ピン
名称
機能
1
GND
接地
2
Tx2n
送信データ
3
Tx2p
送信データ
4
GND
接地
5
Tx4n
送信データ
6
Tx4p
送信データ
7
GND
接地
8
ModSelL
モジュール選択設定
9
ResetL
LO入力でリセット
10
Vcc-Rx
+3.3V電源 (受信機)
11
SCL
2線バス クロック
12
SDA
2線バス データ
13
GND
接地
14
Rx3p
受信データ
15
Rx3n
受信データ
16
GND
接地
17
Rx1p
受信データ
18
Rx1n
受信データ
19
GND
接地
20
GND
接地
21
Rx2n
受信データ
22
Rx2p
受信データ
23
GND
接地
24
Rx4n
受信データ
25
Rx4p
受信データ
26
GND
接地
27
ModPrsL
モジュールの存在を示す
28
IntL
LOで割込 通知
29
Vcc-Tx
+3.3V電源 (送信機)
30
Vcc1
+3.3V電源
31
LPMode
低電力モード
32
GND
接地
33
Tx3p
送信データ
34
Tx3n
送信データ
35
GND
接地
36
Tx1p
送信データ
37
Tx1n
送信データ
38
GND
接地
2線シリアルバス情報
電気インタフェイスには管理用シリアルバスが含まれており、トランシーバの通信性能、適合規格、製造元などの情報が取得できる。
これらは内蔵メモリとしてEEPROM の256バイトのメモリマップが定義されており、I²C インタフェイスの8ビットアドレス0xA0 (1010000X)でアクセスできる。
さらに、デジタル診断監視 (DDM: digital diagnostic monitoring, DOM: digital optical monitoringとも)と呼ばれる機能を持つものがある。この機能に対応したモジュールでは、送受信光強度・温度・レーザーバイアス電流・トランシーバ電源電圧などのモジュール情報をシリアルバス経由でリアルタイム監視できる。この機能は一般的にSNMP を介してネットワーク機器を監視するために実装されている。
脚注
注釈
↑ SFPの初版仕様を取りまとめたスモールフォームファクタ(SFF)委員会 (英語版 ) は2018年にSNIAに吸収され、SNIAの作業グループの1つとして引き継がれている。
↑ 当初16GFCは規格記載がなかったがSFF-8081でSFP16として追加対応された。8GFCの符号化方式である8b/10b よりも16GFCで用いる64b/66b (英語版 ) のほうが効率的であり、この結果16GFCでは同一回線で2倍の伝送路レートが得られ、14.025 Gbpsとなる。
出典
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↑ SFF-8431, Chapter 2 Low Speed Electrical and Power Specifications, 2.1 Introduction, Page 4: "The SFP+ low speed electrical interface has several enhancements over the classic SFP interface (INF-8074i), but the SFP+ host can be designed to also support most legacy SFP modules."
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