TAVITAC(フランス語: Traitement Automatique et Visualisation Tactique)は、フランスのトムソンCSF社(現タレス・ナバル・フランス社)が開発した艦載用の戦術情報処理装置(戦闘管理システム:CMS)のシリーズである。主としてフリゲートやコルベット、ミサイル艇などの中小型艦艇向けに、コストパフォーマンスを重視して設計された。
本システムは、同社が開発したモジュール式の射撃統制システム「Vega」ファミリーをベースとして発展したものである。フランス海軍向けシステムであるSENITシリーズとは異なり、当初は海外への輸出を主眼に民間資金で開発されたが、後に発展型の「TAVITAC 2000」がフランス海軍のラファイエット級フリゲートに採用された。なお、後継としてタレス社とDCN社の経験を融合した次世代戦闘管理システム「SETIS」が発表されたことにより、TAVITACおよびSENITシリーズの系譜はこれに引き継がれることとなった。
1967年、トムソンCSF社のレーダー・地上部門は、排水量150トンから1,000トンクラスの小型艦艇向けにアナログベースの指揮統制システム「Vega(後にVega Iと呼称)」の開発を開始した。この開発は、当時の対艦ミサイルの需要拡大に伴って推進された。
Vega Iは、トリトンIIなどのCバンド・レーダーを目標捕捉用に用い、ポルックスやカストールIIBなどのXバンド・レーダーを射撃統制用に個別に組み合わせる構成をとっていた。中央処理装置には、アナログ弾道計算とデジタル追尾処理を併用するBCHハイブリッドコンピュータが採用され、サブシステムからのデータを直接処理した。
1969年にギリシャ海軍がラ・コンバタントII級ミサイル艇用として発注したのが初の契約であり、1971年12月に「Vega Pollux PCET」を搭載したミサイル艇が就役したことで初配備となった。Vega Iは計8カ国の海軍向けに約50セットが製造された。
アナログベースの信号処理の限界を克服するため、トムソンCSF社は1975年頃にデジタル技術を導入したコンパクトな「Vega II」を開発した。本システムはプロセッサにCDEデジタルコンピュータを採用し、レーダーの改良とともに、最大32目標の同時追尾(TWS)能力を獲得した。
フランス海軍は、本システムをデスティエンヌ・ドルヴ級通報艦(A69型)向けのハイブリッド射撃統制システム「CTH」(Conduite de Tir Hybride)として選定し、1976年9月に「デスティエンヌ・ドルヴ」とともに就役した。Vega IIはミサイル艇だけでなく2,000トンを超える大型艦艇にも適しており、計12カ国の顧客に約75セットが販売された。また、1998年には商用オフザシェルフ(COTS)技術と新型捜索レーダーを融合したモジュール式アップグレード計画「Vega 3」も計画された。
1970年代後半、顧客からより包括的な戦術情報処理能力への要求が高まったことを受け、トムソンCSF社は新たな戦術情報処理装置の開発に着手した。プロトタイプは1975年から1976年にかけて組み立てられ、1978年に開発が完了した。開発当初は「Vega Nouvelle Génération」や「Vega 3C」、あるいは「SENIT 5」などとも呼ばれていたが、1983年以降は正式にTAVITACと呼称されるようになった。
TAVITACは集中型システムであり、主コンピュータに32ビットのCIMSA Sintra 15M125(処理速度1 MIPS、メモリ64-512kワード)またはCDEコンピュータを使用し、16ビットの15M05コンピュータによって補完させる構成をとっていた。ソフトウェアはアセンブラ言語で記述されていた。表示部にはGVM表示システムが導入され、オペレータ向けに垂直型コンソールと、2-3名用の水平型コンソール(戦術テーブル)が配置された。各コンソールは最大200のトラックと100種類の記号を表示可能であった。機能面では、リンク 11などのデータリンクを介した艦外センサー情報の統合、目標の自動追尾、対空脅威評価、兵器指定、戦術航海支援、およびシミュレータによる訓練機能を備えていた。
本システムは、1983年10月に就役したコロンビア海軍のアルミランテ・パディーヤ級フリゲート(FS 1500型)への搭載をもって最初の実戦配備となった。その後、サウジアラビア海軍のF 2000S型フリゲート(マディーナ級、5基のコンソールとE7000自動プロッティングテーブルを装備)や、チュニジア海軍のミサイル艇などに輸出された。また、1986年には中国へも2システムが輸出され、1990年にデリバリーされた。
1980年代末、トムソンCSF社は新型プロセッサ、新しいソフトウェア言語、およびデータバスを導入した次世代型として「TAVITAC 2000」を発表した。ほぼ同時期にフランス海軍が計画していた新しい軽フリゲート(後のラファイエット級フリゲート)用の戦術データ処理装置「STI」(Système de Traitement d'Information)の仕様策定において、TAVITAC 2000がその役割として選定された。フランス海軍のアプリケーションソフトウェアを一部導入していることから、本システムは同海軍においてSENIT 7とも称されている。最初のシステムは1992年夏に試験艦「モンジュ」に設置され、1994年12月のフリゲート「ラファイエット」の就役に伴い制式配備となった。
TAVITAC 2000は、高度に集中化された構造を維持しつつもスター型アーキテクチャを採用し、LAN(二重化10メガビット・イーサネット・データバス)を導入してシステム内の全センサーとデータリンクを結合している。中央処理には、モトローラ社のMC68030およびMC68040マイクロプロセッサ(3 MIPS、メモリ6Mバイト)で構築されたCSD(旧CIMSA)社製のMLX-32戦術コンピュータが使用され、主(マスター)と待機(ホットスタンバイ)の2基による相互冗長構成をとる。ソフトウェアはAda言語で記述され、UNIX(System V)オペレーティングシステムが採用されている。これにより、軍用規格製品に代わって耐環境能力を高めた堅牢化(ハルデン化)民間基準機器の使用が可能となり、システム全体の製造コストが大幅に削減された。システム全体の目標追尾容量は最大800トラックに拡張された。
オペレータ用の端末には、MC68030プロセッサを内蔵した高解像度カラー表示の「Vista RM(別名VLX)」ラスタースキャン多機能コンソール(19インチ画面、グラフィックコントローラ部で2,000×2,000型画素)が採用された。各コンソールはソフトウェアによって構成を自由に変更でき、相互に完全な互換性を有している。フランス海軍のラファイエット級では、作戦室内に5基のコンソール(戦術統制、対空戦、対水上・対潜戦、武器管制、TAO用)とプレシラックE8000プロッティングテーブルが配置され、6基目の増設スペースが確保されていた。
輸出型仕様では、主要な艦載センサー(対空捜索レーダー、スフェリオン・ソナー、可変深度ソナーなど)が直接メインLANに結合される。ラファイエット級の派生型のうち、中華民国海軍の康定級フリゲートでは、装備基準の高さを反映して当初から6基のコンソールが標準配備された。また、サウジアラビア海軍のアル・リヤド級フリゲートでは、各艦に9基のコンソールと2基のプロッティングテーブルが設置され、リンク 11のほかにAWACSリンクや他資産との協調用OTH(視界外)目標指定リンクが統合された。
なお、SEWACO-FDに対抗して、トムソンCSF社は1996年春頃から本システムを「TAVITAC-FD」とも呼称していた。
1996年10月のユーロナヴァルにおいて、TAVITAC 2000をさらに進化させた最新型のTAVITAC NT(New Technology)が発表された。TAVITAC NTは、全面的なCOTSコンポーネントの最適化配置により、信頼性の向上とさらなる低コスト化を達成した完全分散型アーキテクチャの戦闘管理システムである。
ネットワークには、イーサネットおよびFDDI標準を採用した光ファイバーLANが2重化されて配線されている。各種センサーや兵器システムは、システムインターフェースユニット(SIU)と呼ばれる接続装置を介して直接ローカル・エリア・ネットワークにプラグインされる。ソフトウェアはAdaおよびC言語で記述され、POSIX、X-11、Motif、UNIXなどのオープンシステム標準規格に準拠して設計されている。
オペレータ端末には、29インチの大画面カラー液晶ディスプレイ(2,000×1,500画素、電気発光キーボードおよびトラックボールを装備)を備えた新型の「Vista Mark 2」多機能コンソールが導入された。各ワークステーションは内部に32MバイトのRAMを持つプロセッサを2基独立して搭載しており、それぞれ戦術アプリケーション用(Ada)とMMIアプリケーション用(C言語)に割り当てて局所処理を行う。画面上には、オプトロニクス(電気光学)映像を表示するためのウインドウが最大2基まで個別展開可能である。フリゲート級の艦艇では6基のワークステーションによる構成が標準的であるが、哨戒艦などの小規模プラットフォーム向けには2基のコンソール構成でも十分な処理を維持できる。
TAVITAC NTは、クウェート海軍のウム・アルマラディム級ミサイル艇(3基のCalistoコンソールと2基の独立戦術コンピュータを装備し、MRR 3DレーダーやDR 3000 ESM、ナジールMk 2射撃統制システムを統合)向けとして1995年に発注され、1998年7月より就役を開始した。また、南アフリカ海軍のヴァラー級フリゲート(MEKO A-200型)に搭載された戦闘管理システム「ETNA-CDS」も、TAVITAC NTの技術基盤をベースとして現地の防衛産業(アフリカン・ディフェンス・システムズ社)との共同開発によって製造された。艦載プラットフォームのほか、TAVITAC NTは沿岸のミサイル発射機・レーダー網を統制する「沿岸監視用システム」としても調達されており、キプロス(3システム)やエストニア(1システム)、および極東の一カ国(3システム)へと配備された。
1986年3月、中国人民解放軍海軍は駆逐艦の近代化改修用としてフランスから2セットのTAVITACを購入する契約を締結し、これらは1990年に納入された。その後、中国電子進出口総公司 (CEIEC) によるライセンス生産が開始され、ECIC-1と称された。中国人民解放軍海軍ではECIC-1をH/ZKJ-4として装備化し、艦艇建造プログラムにおける電子兵装近代化の中核として組み込んだ。
中国海軍におけるこれら各種新型電子システムの初期生産・導入においては、1990年代中期頃に一時的な生産上の困難や技術的トラブルに直面し、一部の艦艇で竣工・完成が1-2年程度遅延する原因となった。なお、1989年の武器輸出禁輸措置(対中制裁)の発効以降、中国側が独自に発展型である「TAVITAC 2000」の正規ライセンスや「TAVITAC NT」の新技術をタレス社より直接取得した可能性は極めて低いと分析されており、ZKJ-4については、中国船舶重工集団(CSIC)の第723研究所(揚州船用電子儀器研究所)によるリバースエンジニアリング成果を踏まえた山寨版であろうと指摘されている。
搭載艦艇一覧