C-17 (航空機)
概要
C-17はC-5戦略輸送機に匹敵する大型貨物の長距離空輸能力とC-130戦術輸送機並みの短距離での離着陸性能を持つ大型輸送機である。
アメリカ空軍では研究開発機を除く223機を航空機動軍団、太平洋空軍、航空教育訓練軍団、空軍予備役軍団、州兵航空隊に配備しているほか、平和維持活動や人道支援による軍の海外派遣が世界的に増えたことから長距離・大型輸送能力が評価され、他国でも採用が広がった。
2000年代に入ると国際的な軍事費削減の動きが強まり、ボーイング社は2015年にC-17の製造ラインを閉鎖した。しかし、その後のアメリカ国内での中国脅威論の台頭や中東での対テロ戦争継続から生産継続またはC-5Mのような初期生産分の近代化改修を行う提案がなされている。
特徴
アメリカ陸軍のすべての装甲戦闘車両と航空機の搭載が可能で、C-5戦略輸送機の最大ペイロードの65%近くとなる77トンの貨物搭載ができる。
- 搭載例
最大ペイロードでの航続距離は4,440km、離着陸距離は910m。先進中型短距離離着陸輸送機計画において試作されたYC-15が実証したEBF方式のパワードリフト・システムを用いてSTOL性能を確保している。これはエンジン排気流を主翼下面とスロッテッド・フラップに当てて揚力を増す方式である。
不整地への着陸を考慮し4基のエンジン全てにスラスト・リバーサーが装備されている。リバーサーはファンコールドストリーム型とクラムシェル型の併用で、100%の逆噴射が行える。また上方へ気流を噴射することで、未舗装滑走路で異物をエンジンに吸い込むリスクを最小限にしている。これらにより戦略輸送機と戦術輸送機を兼ねる機体としているが、厳密には降着装置の接地圧が高く、後者の条件は満たしていない。
C-17は太い胴体と横に突き出したスポンソン部に4ユニット計12個の車輪を収めることで、大貨物の搭載を可能としている。貨物の積み下ろし口は後部ランプのみであるが、油圧ウインチと8列ローラー・コンベアによる省力化で、1人のロードマスターでも卸下運用が行えるようになっている。
コックピット内は広く、2名のパイロット席と後部の2名分の追加乗員席に加え、ギャレーと2名分のベッドが備えられている。計器は4つの多機能ディスプレイを備えたグラスコックピットとなっており、輸送機では世界で初めてヘッドアップディスプレイを採用した。操縦装置はフライ・バイ・ワイヤの操縦桿を採用しているが、配置はサイドスティック方式ではなく、床から伸びた台座に操縦桿を設置する変則的なセンター配置である。また前部胴体の右側にはロードマスター用の操作席が設けられている。
多くの軍用輸送機と同じく高翼配置の主翼にターボファンエンジンを4基搭載し、尾翼はT字尾翼、翼端にはウィングレットを装備している。また19tまでの低高度パラシュート抽出システムに対応している。
生産71号機以降は中央翼部に燃料タンクが増設されて航続距離が延び、ボーイング社ではこの型をC-17ERと呼んでいる。
推力向上型エンジンと新型フラップシステムの導入で離着陸性能を向上させ、中央胴体下に主脚を1本増設するC-17Bも計画されていたが実現しなかった 。
歴史
YC-15
アメリカ空軍は1970年代にC-130の後継機計画を模索しており、先進中型短距離離着陸輸送機計画 (AMST)によってボーイングはYC-14を、マクドネル・ダグラスはYC-15を提案した。両者の提案は空軍の要求を上回るものであったが、開発段階に進む前にAMSTは中止となり、1979年11月にC-X (次期輸送機計画) として再開された。1980年時点でアメリカ空軍は老朽化したC-141を大量に保有していたが、空軍は迅速な展開のために戦略的空輸能力の向上を必要としていた。1980年10月、空軍はC-Xの提案依頼書を発表した。マクドネル・ダグラスはYC-15をベースにした新型機を開発、ボーイングはAMSTのYC-14を拡張、ロッキードはC-5ベースの機体とC-141を拡張した2機種を提案した。1981年8月28日、マクドネル・ダグラスがC-17の開発を担当することが決定。YC-15との違いは後退翼の採用と機体サイズの拡大、エンジンの強化などであった。C-17の開発でC-141の任務とC-5の担っていた大型貨物輸送の一部を行うことができるとされた。
C-Xの選定後も空輸の需要を満たすためC-141AのC-141Bへの改良、C-5の増産、KC-10の継続購入、民間予備航空隊の活用などの代替案が提言された。計画は予算や技術的な問題で4年間の延期を余儀なくされたが、この間に予備設計作業とエンジン認証のための契約が結ばれ、1985年12月31日に全規模開発契約が結ばれた。原型機のロールアウトが1990年12月となった。初飛行は1991年9月15日にカリフォルニア州のロングビーチ工場で行われた。部隊への配備開始は1993年7月に、第437空輸航空団から開始された。その後も、コストパフォーマンスの問題 で調達に遅れが生じたが、問題払拭後は発注数が増加している。
C-17は開発目標を概ね達成し高く評価され、近年のアメリカ軍の中東展開には、欠かせない機体となっている。
アメリカ軍のアフガニスタン撤退
キャビン一杯に乗り込んだ避難民
2021年ターリバーン攻勢では、アメリカの想定以上の速さでターリバーンが首都カーブルを制圧。多くの避難民がターリバーンから逃れるためにカーブル国際空港に殺到した。この際、アメリカ軍は一部の避難民の国外輸送にC-17を使用した。首都陥落直後の混乱では8月16日空港制限区域内に一般人が乱入、誘導路や滑走路上を移動するC-17にしがみつき離陸後に転落したり、着陸後に主脚格納装置に巻き込まれて死亡しているのが確認された 一方、1機で600人以上の民間人を機内にスシ詰め状態にして運用せざるを得ない状況となった。
採用国
現在、C-17を採用しているのは7ヶ国と1機構軍である。
C-17採用国(青色)
アメリカ合衆国
ハリケーン・カトリーナによる災害派遣で救援物資を輸送したアメリカ空軍のC-17
- アメリカ空軍航空機動軍団(AMC)では223機が配備され運用されている。
大統領専用車の国内および国外の移動で利用されるC-17
イギリス
イギリス空軍のC-17
- イギリス空軍ではエアバス A400Mの開発遅延もあり、2001年からグローブマスター C.1の名称で (この名称はすぐに廃れ、現在はC-17A グローブマスターIIIとなっている) C-17Aの運用を開始した。当初はリース契約であったが、2004年に購入契約に切り替えた。
- 当初は4機の運用予定だったが、2009年までに6機に増強され、同年12月に更に1機が追加発注され、最終的に8機となった。2022年9月8日にスコットランド、アバディーンシャーのバルモラル城で崩御したエリザベス2世の棺を9月13日にエディンバラ空港からノーソルト基地(英語版)まで輸送した。
オーストラリア
オーストラリア空軍のC-17
- 2006年、オーストラリア空軍が開発中のA400Mと比較検討の上、国外展開用に4機の購入を決定。費用は10億豪ドル。
- 2006年-2008年にかけて機体を受領し、第36飛行隊に配備された。2011年に発生した東北地方太平洋沖地震では当時利用可能だった3機全てが救援物資輸送のため日本に派遣された。
- 2011年の追加発注により2012年11月には機数が6機に増強され、2015年には8機となった。
カナダ
カナダ空軍のCC-177
- カナダ軍(カナダ空軍)は、国外展開用に長距離輸送機を求めており、2007年からC-17Aの取得を開始した。
- 4機を取得し、CC-177の名称で第429航空隊に配備されている。2014年12月19日には5機目の導入を発表した。
カタール
カタール航空の塗装が施されたカタール空軍のC-17
- カタール空軍は、2008年7月21日にC-17Aを2機発注。2009年に受領。2015年までに8機となった。すべて民間登録で、うち1機(機体記号A7-MAB)はカタール航空の塗装である。
アラブ首長国連邦
UAE空軍のC-17
- 2009年にC-17Aを2機、2010年1月にさらに4機を追加発注。2011年に最初の2機、2012年に追加の4機が納入された。
NATO
SACで使用されるC-17
- C-17Aを多国籍で共同調達・共同運用を行う戦略空輸能力(英語版)構想を発表し、2008年10月1日にブルガリア、エストニア、ハンガリー、リトアニア、オランダ、ノルウェー、ポーランド、ルーマニア、スロベニア、アメリカのNATO加盟10ヶ国とNATO非加盟のスウェーデン、フィンランドの合計12ヶ国が了解覚書に調印。
- アメリカ空軍から1機が提供されたほか、2009年に新造機2機を調達、ハンガリー空軍のパパ空軍基地を拠点に運用が行われている。このため機体にはハンガリー空軍の国籍マークが描かれている。
インド
インド空軍のC-17
- インド空軍がロシア製のIl-76 20機の後継としてC-17Aの購入を希望し、2009年2月にアメリカ空軍に対し取得費や運用コストについての情報を求めた。最終的に2011年6月が10機の発注され、2013年から2014年末までに10機を受領した。2024年時点で、11機を保有。
- 2015年のイエメン内戦で、孤立した自国民の出稼ぎ労働者の救出に派遣された。また同年のネパール地震では救援物資の輸送のためネパールに派遣された。
クウェート
クウェート空軍のC-17
- 2010年9月に対外有償軍事援助形式で1機の購入を希望し、2013年に2機を発注、翌年2月13日に初号機が納入された。
検討
日本
- 航空自衛隊でC-1の後継候補となったが、使用できない飛行場があり、最高巡航速度が性能要求を下回ることから採用されなかった。
- 三井物産が日本での輸入代理店になっており、1990年代後半の『自衛隊装備年鑑』などに掲載された広告には、政府専用機の塗装を施したC-17のイラストが描かれていた。
- 2025年2月7日(日本時間8日)、アメリカを訪問した石破茂首相がドナルド・トランプ大統領との首脳会談にて、アメリカ製大型輸送機の購入に意欲があることを伝え、トランプ氏側もこれに歓迎する意向を示した。この大型輸送機の候補にはC-17が念頭に上がっており、日本政府内でC-17の購入に向けた検討を進めている。C-17はすでに製造が終了しているため、米軍の中古機を購入する案が浮上している。同年3月14日、中谷元防衛大臣は「本気でこれを求めるという認識にある人はまずいないと思う」と述べ、導入に否定的な見解を示した。
フランス
- 2009年3月27日、フランス国防省がアメリカ空軍に書簡を送り、3機のC-17A購入についての価格や引き渡し時期などのデータの問い合わせを行った。
韓国
- C-17の導入を正式に決めたわけではないが、2008年夏にC-17クラスの輸送機を3-4機購入する資金を準備したとされていた。
民間型
旧マクドネル・ダグラス時代の1990年代に本機の民間機バージョンとして「MD-17」が計画されたが、実現しなかった。また2000年にもボーイングが民間型「BC-17X」を提案したものの、こちらも受注は得られていない。
仕様
C-17Aの三面図
- 全長:53.0 m
- 全幅:51.8 m
- 全高:16.8 m
- 翼面積:353.02 m²
- 最高巡航速度:M0.77
- 巡航速度:M0.74(450 knot、833 km/h、高度8,530 m)
- 実用上昇限度:45,000 ft (13,716 m)
- エンジン:P&W F117-PW-100 ターボファン(推力18,460 kg)×4基
- 航続距離:5,190 km(空荷フェリー時:9,815 km)
- 貨物室寸法
- 全長:26.82 m(6 mのランプ含む)
- 全幅:5.48 m
- 全高:3.76 m(主翼後端までの約13m)/5.3 m(主翼後端からランプ付近まで)/4.1 m(ランプ端付近)
- 空虚重量:128.1 t
- 最大離陸重量:265.35 t
- 最大積載量:77.519 t
- 最低着陸必要距離:1,000 m(500 mで着陸した実績有り)
出典
- 1 2 3 4 5 軍事研究2007年10月号「地球の裏へ急速空輸:C-5/C-17巨人機」
- ↑ “ボーイング、軍用機「C17」生産を15年に打ち切り 加州工場閉鎖へ”. ウォール・ストリート・ジャーナル. 2013年9月18日. 2013年10月8日閲覧.
- ↑ Trimble, Stephen. "Boeing offers C-17B as piecemeal upgrade." Archived 7 December 2017 at the Wayback Machine. Flight International, 19 August 2008.
- ↑ "Air Force Lets Advanced STOL Prototype Work." Archived 7 November 2012 at the Wayback Machine. The Wall Street Journal, 13 November 1972.
- ↑ Miles, Marvin. "McDonnell, Boeing to Compete for Lockheed C-130 Successor." Archived 7 November 2012 at the Wayback Machine. Los Angeles Times, 11 November 1972.
- ↑ Kennedy, Betty R. Globemaster III: Acquiring the C-17. McConnell AFB, Kansas: Air Mobility Command Office of History, 2004.p3–20, 24
- ↑ Norton, Bill. Boeing C-17 Globemaster III (Warbird Tech, Vol. 30). North Branch, Minnesota: Specialty Press, 2001. ISBN 1-58007-040-X.p12–13
- ↑ Norton, Bill. Boeing C-17 Globemaster III (Warbird Tech, Vol. 30). North Branch, Minnesota: Specialty Press, 2001. ISBN 1-58007-040-X.p13、15
- ↑ "Douglas Wins $3.4B Pact to Build C-17." Archived 7 November 2012 at the Wayback Machine. Los Angeles Times, 3 January 1986.
- ↑ C-17 AIRCRAFT Cost and Performance Issues アメリカ会計検査院報告
- ↑ 米軍、シリア北部の滑走路拡張 C17輸送機でラッカ奪還の支援強化 AFP(2017年4月5日)2017年4月5日閲覧
- ↑ カブール離陸の米軍機から転落死 19歳のサッカー選手
- ↑ “米軍機内にアフガン人600人超 劇的な退避作戦の写真公開”. AFP (2021年8月18日). 2021年8月18日閲覧。
- ↑ RAF - C-17A Globemaster
- ↑ 「月刊エアライン」2018年5月号p.121。
- ↑ Air Force Warrior Sentinels: C-17 Globemaster
- ↑ 次期輸送機 政策評価書 防衛省・自衛隊
- ↑ “首相、米輸送機の自衛隊導入意欲 トランプ氏に伝達”. 共同通信 (2025年2月27日). 2025年2月26日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年3月1日閲覧。
- ↑ “石破首相、米軍の大型輸送機導入検討 「安全保障の観点から議論」”. 毎日新聞 (2025年3月5日). 2025年3月7日閲覧。
- ↑ “首相が購入意欲のC17、中谷防衛相「本気で求める人、まずいない」”. 朝日新聞. 2025年3月14日. 2026年2月16日閲覧.
- ↑ “米国製大型輸送機導入で中谷防衛相「本気で求める認識の人いない」 石破首相と意見異なる”. 産経新聞. 2025年3月14日. 2026年2月16日閲覧.
- ↑ Boeing Is Undisputed Leader In Providing Air Cargo Capacity
- ↑ "C-17 Technical Specifications" The Boeing Company.
- 1 2 "CC-177 Globemaster III Overview" Royal Canadian Airforce.
- ↑ “C-17 Globemaster III” (英語). Air Force. United States Air Force. 2022年11月19日閲覧。
参考文献
- The International Institute for Strategic Studies (IISS) (2024) (英語). The Military Balance 2024. Routledge. ISBN 978-1-032-78004-7
外部リンク
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陸軍航空部 陸軍航空隊 陸軍航空軍 空軍 1925 - 1962 | |
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海軍・海兵隊 1927 - 1962 |
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