ギャップ結合ベータ2タンパク質(ギャップけつごうベータ2タンパクしつ、英: Gap junction beta-2 protein、GJB2)は、コネクシン26(Cx26)としても知られ、ヒトではGJB2遺伝子によってコードされるタンパク質である。また、マウスではGjb2遺伝子に相当する。
ギャップ結合は、接触する接着細胞の細胞膜上にある局所的な特殊構造として、電子顕微鏡によって初めてその特徴が明らかになった。これらの構造は、細胞間チャネルで構成されていることが示されている。さまざまな組織のギャップ結合濃縮画分から精製されたコネクシンと呼ばれるタンパク質は、それぞれ異なっている。コネクシンは、その分子量によって呼称される。
もう一つの命名体系では、ヌクレオチドおよびアミノ酸レベルでの配列の類似性に基づき、ギャップ結合タンパク質をアルファとベータの2つのカテゴリーに分類している。例えば、CX43(GJA1)はアルファ1ギャップ結合タンパク質とされ、一方でGJB1(CX32)およびGJB2(CX26;本タンパク質)は、それぞれベータ1およびベータ2ギャップ結合タンパク質と呼ばれる。この命名法は、GJB1とGJB2が、アルファ型のGJA1に対してよりも、互いにより高い相同性を持っていることを強調するものである。
ギャップ結合ベータ2タンパク質はコネクシンタンパク質ファミリーの一員であり、隣接する細胞間で栄養素、イオン、シグナル伝達物質の輸送を可能にするチャネルであるギャップ結合の形成において、極めて重要な役割を果たしている。
GJB2は全身で広く発現しているが、特に内耳の蝸牛と皮膚の表皮において生理学的に不可欠な役割を共有している。
この遺伝子の欠損は、先進国における先天性難聴の最も一般的な形態であるDFNB1(コネクシン26難聴、またはGJB2関連難聴とも呼ばれる)を引き起こす。変異の種類や頻度には極めて強い地域特異性(人種差)が存在する。
欧米白人においては、6つ連続するグアニンのうち1つが欠損(c.35delG)する変異が最も一般的であり、これによりフレームシフト変異が生じて13番目のアミノ酸でタンパク質の合成が停止する。
一方、日本、中国、韓国などの東アジア地域においては「V37I(c.109G>A)」と呼ばれるミスセンス変異が圧倒的な高頻度(最頻出変異)で認められる。この変異は、37番目のアミノ酸であるバリンがイソロイシンに置換されるものである。
V37I変異をホモ接合、あるいは他の変異との複合ヘテロ接合で持つ場合、完全な失聴には至らず「軽度から中等度の難聴」に留まるケースが多い。そのため新生児聴覚スクリーニングをすり抜けやすく、学童期以降に発見される進行性難聴や高音急墜型の形態をとりやすいという臨床的特徴を持つ。また、健聴者であってもこの変異を片方の遺伝子に保持している保因者率が、東アジア人集団では数%以上に達すると報告されている。
東アジアにおいてのみV37I変異が突出して多い理由として、共通の祖先に由来する創始者効果(ファウンダー効果)が挙げられている。さらに、この変異は耳(聴覚)に対しては軽度難聴という軽微なデメリットをもたらす一方、GJB2が発現するもう一つの組織である「皮膚の表皮」において、地域の病原体に対する感染症防御や乾燥気候への適応など、皮膚のバリア機能を強化する何らかの生存優位性(正の自然選択)が働いた結果として集団内に高頻度で維持された可能性(平衡選択仮説)が示唆されている。
コネクシン26は、細胞周期の制御を介したがん抑制因子としての役割も持つ。Cx26の異常発現は、大腸がん、乳がん、膀胱がんなどの予後因子と相関していることが示されている。
GJB2変異に伴う難聴に対しては根本的な治療法は未だ存在しないが、新たな治療アプローチとして遺伝子治療の開発が進められている。
フランスのバイオテクノロジー企業であるSensorion社は、アデノ随伴ウイルス(AAV)プラットフォームを用いた遺伝子治療候補物質の開発を行っている。これはGJB2変異難聴を対象としたもので、内耳の正常な聴覚シグナル伝達に必要なイオン環境の維持・回復を目指している。2026年6月現在、カナダおよびフランスにおいて臨床試験申請(CTA)が提出されており、フランス医薬品安全庁(ANSM)からは迅速審査(Fast Track)の対象に指定されている。今後実施予定の臨床試験(Hearconnex試験)では、GJB2変異を持つ小児難聴患者の蝸牛へ直接投与し、安全性、忍容性、および初期有効性の評価が行われる予定である。