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Leanのロゴ | |
| パラダイム | 関数型プログラミング |
|---|---|
| 登場時期 | 2013年 |
| 開発者 |
Leonardo de Moura Lean FRO |
| 最新リリース | v4.35.0/ 2026年10月13日 |
| 型付け | 推論される, 強い, 静的 |
| 影響を受けた言語 |
ML Coq Haskell Prolog Rust Scheme |
| プラットフォーム | クロスプラットフォーム |
| ライセンス | Apache License 2.0 |
| ウェブサイト |
lean-lang |

Lean(リーン)は、定理証明支援系、および関数型プログラミング言語である。数学の定理やプログラムの性質や仕様を形式的に記述し、それらについての証明をコンピュータで検査するために用いられる。主にレオナルド・デ・モウラによって開発が始められ、現在は Lean Focused Research Organization とコミュニティによって開発されている。
プログラミング言語としての Lean は、純粋関数型言語である。この点では Haskell と似ているが、Haskell とは異なる点として以下が挙げられる。
また、プログラミング言語としての Lean は、真のマクロを持つ拡張性の高い言語でもある。この特徴は Common Lisp、Rust、Julia 等と似ているが、これらの言語とは異なる点として以下が挙げられる。
macro! という形でなければならず、Julia のマクロは @macro という形でなければならないが、Lean のマクロにそのような制約はない。Lean は定理証明支援系でもあるが、その基盤は依存型にある。依存型があるということは、カリー・ハワード同型対応によって「高階述語論理を型として表現できる」ということを意味する。これにより、Lean は数学の証明をプログラムとして表現できる。これは他の依存型に基づく定理証明支援系(Rocq や Agda や Idris)と同様である。また、逆に言えば同じく定理証明支援系である Isabelle とは Lean は理論的基盤が異なる。
「依存型に基づく定理証明支援系」の中でも、Lean は以下の特徴によって他と区別される。
Lean はプログラミング言語でもあるため「Lean で書いたプログラムを Lean で検証する」ことが可能であり、これに命令的コードが書けることを併せると「命令的なコードを Lean で書いて Lean で検証する」ことが可能である。これは Dafny を想起させる性質だが、Dafny は de Bruijn 基準を満たしていない、つまり「独立に検査可能な証明項を生成しない」ため Lean に比べて信頼性が低いという違いがある。
Lean はGitHubでホストされているオープンソースプロジェクトである。2013年にMicrosoft Researchのレオナルド・デ・モウラによって立ち上げられた。
Lean の開発時点で Coq や Agda など他の定理証明支援系は存在していた。Lean の言語仕様はそれらから大きく逸脱したものではないが、新しい証明支援系を考案した理由として、次の2点がある。
最初のプロトタイプは Lean 0.1 (2014 年) である。Lean 0.1 では ML ライクな構文が導入され、それは後のすべての Lean のバージョンで継承されることになる。単純な simp タクティクが既にこのバージョンから存在した。帰納型のサポートはまだなく、手で公理(axiom)を追加する必要があった。Lean 0.1 では、Lua スクリプトによる構文と戦術の拡張がサポートされていたが、この部分は後の Lean 3 で削除されることになる。
2015 年、Lean の最初の公式リリースである Lean 2 が発表された。帰納型の適切なサポートや組み込みタクティクの拡張など、欠けていた重要な機能が追加されたほか、主要な機能として Lean 2 ではホモトピー型理論 (HoTT) のサポートが追加された。
最初にリリースされた比較的安定したバージョンは Lean 3 で、2017年の1月20日にリリースされた。Lean 3 では、あまり使用されていなかった Lua による構文拡張機能が削除され、根本的に異なるアプローチが採用された。Lean 自体がプログラミング言語とされ、Lean 自体によりタクティクの定義やそのほかのメタプログラミングが可能になった。Lean 2 からのもう一つの大きな変更は、ホモトピー型理論 (HoTT) のサポートの廃止である。HoTT のサポートが廃止された理由としては、
が挙げられる。また、Lean で数学を形式化するライブラリである mathlib がコミュニティ管理の 独立したプロジェクトとして分離された。
バージョン3.4.2以降、Lean 3の開発は正式に終了し、Lean 4の開発が始まった。
2021年、Lean 4の最初のマイルストーンリリースが発表された。C++ではなく Lean 自身によって再実装され、定理証明支援系であると同時に汎用プログラミング言語でもあるという位置づけが強められた。
Lean 4 より以前のバージョンでは、次のような問題点が認識されており、Lean 4 ではそれらへの対応が行われた。
Lean 4 は完全に拡張可能であり、パーサ、エラボレータ、タクティク、決定手続き(decision procedure)、プリティプリンタ、コードジェネレータを変更・拡張することができる。また Lean 4 は対話的証明のためにカスタマイズされた衛生的なマクロ(hygienic macro)を持つ。Lean の構文をユーザが改変する際に C++ コードに触れる必要はなくなった。
さらに Lean 4 ではメモリ管理手続きが改善されたほか、テーブル解決に基づく新しい型クラス解決アルゴリズムが使用され、パフォーマンスが改善された。また、Lean 4 は functional but in-place と呼ばれる新しいプログラミングパラダイムに基づくようになった。
Lean 4 には Lean 3 との後方互換性はない。Lean3 で開発されていた主要なライブラリとして、2017年ごろから開発が行われていたmathlib が挙げられるが、コミュニティにより Lean4 への書き直しが行われた。これには100万行以上のコードを書き換える必要があったが、この移行作業は2023年7月に完了した。
2023年7月、Lean Focused Research Organization (FRO) が設立された。形式数学の発展に向けて、証明のUI改善、スケーラビリティの改善、証明の自動化といった問題に取り組むとしている。また2023年9月、最初のLean 4 の公式リリースが発表された。
非形式的な数学において一般的に基礎理論として採用されているのは ZFC 集合論と呼ばれる理論であるが、Lean で採用されている基礎理論は Calculus of Inductive Constructions (省略して CIC と呼ばれる) であって、これとは異なる。
Lean の型システムの無矛盾性については、Lean 3 の時代の結果として、「ZFCω が無矛盾であることと、 Leanω が無矛盾であることが同値であること」が知られている。ただし ZFCω とは、「ZFC に、任意の有限個の到達不能基数が存在するという仮定を足したもの」を指し、 Leanωとは「Lean 3の型システムに、任意の有限個の universe があるという仮定を足したもの」を指すものとする。 これは、ZFC の中で Lean 3 のモデルが構築でき、Lean 3 の中で ZFC が構築できるためである。
Lean 4 については、入れ子帰納型 (nested inductive type) や構造体のη変換 (η for structures) が導入されたことが型システムに大きな影響を及ぼしており、Lean 3 に対する無矛盾性の証明はそのまま適用できなくなった。
Lean では項の型は一意である。つまり、項 e の型が α であり同時に β であるとき、α と β は(どこかの型宇宙において)等しい。
なお、これは「型とは、集合のようなもの」という、型に対する素朴な理解とは矛盾することに注意が必要である。集合の場合は、 かつ であるならば、 が成り立つ。しかし、Lean では型 U の項を他の型の項であると直接見なすことはできない。
旧Coq (現在のRocq) は、Lean と同じくCalculus of Inductive Constructions (CIC) を採用しているという点で、Lean とよく似ているが、以下のような点で異なる。
プログラミング言語としての Lean は、関数などの式を部分的に実行して評価することが容易にできるように設計されている。#eval というコマンドが存在し、関数などをその場で評価することができる。これにより、エディタ上で「コードを編集している最中に」式の評価結果のフィードバックを得ることができる。
def frac (n : Nat) : Nat :=
match n with
| 0 => 1
| n + 1 => (n + 1) * frac n
-- エディタ上でコードを開いているとき
-- `#eval` の上にマウスオーバーすると 120 と表示される
#eval frac 5
なお、「エディタ上でコードを編集している間もエラボレーションが実行されてゴールが確認できる」というのは対話的な定理証明支援系にはよく見られる機能で、Agda や Isabelle、Rocq でも同様。

Lean はオブジェクト指向言語ではないとされている。しかし、関数適用を「まるでフィールドにアクセスするかのように」書くことができる記法が用意されている。これは Nim 言語における Uniform Function Call Syntax に似ている。
structure Point (α : Type) : Type where
x : α
y : α
-- アクセサ
#check (Point.x : {α : Type} → (Point α) → α)
#check (Point.y : {α : Type} → (Point α) → α)
def origin : Point Int := { x := 0, y := 0 }
-- 通常の関数適用の書き方
#guard Point.x origin = 0
-- フィールド記法。`.x` を付けるだけで値にアクセスできる
#guard origin.x = 0

型クラスは、プログラミングと定理証明の両方において、アドホック多相性 を実現する仕組みである。しかし、数学ライブラリ Mathlib の中で型クラスが広く使われるにつれ、既存の型クラス解決手続きの理論的限界が問題となった。既存の型クラス解決手続きの主要な理論的限界とは、次のようなものである:
Lean 4 では、この2つの問題を解決する新しいアルゴリズムであるテーブル化型クラス解決が実装されている。このアルゴリズムは Prolog に対して1998年に 提案された型クラス解決アルゴリズムに基づく。
Lean は Haskell の影響を受けており、モナドとモナド変換子が標準ライブラリに深く組み込まれている。
純粋関数型言語において手続き的な計算をエミュレートする方法としてはモナドの他にも代数的エフェクト・ハンドラが知られている。代数的エフェクト・ハンドラはモナドに比べると、たとえばモナドを入れ子にしたときにモナドをリフトするような操作が必要ないという利点がある。
代数的エフェクトについては Lean の開発者たちによって検討されたことがあるが、実行時またはコンパイル時のオーバーヘッドが避けられずパフォーマンス上の懸念があるという理由で採用されなかったという経緯がある。
Lean は純粋関数型言語であるため、手続き型言語では暗黙に扱われる副作用を、モナドという再利用可能な抽象的要素で再定義することで扱っている。この再定義によって、副作用をより厳密に制御したり、派生的な副作用を導入したりすることを可能にしている。モナドは Haskell で広く用いられる抽象化機能であり、その糖衣構文である do 記法と結びついている。
Lean では、メタプログラミングフレームワークを用いて、Haskell の do 記法に由来する構文が拡張されている。具体的には以下のような記法を最初からサポートしている。
let mut で宣言できるようにする Rust ライクな記法for ループ、break や continue といった制御フローたとえば、以下は Lean 4 で実装したエラトステネスの篩である。
/-- `n`以下の素数のリストを `Array Bool` の形で返す。
`i` 番目が `true` ならば `i` は素数で、`false` ならば合成数。 -/
def eratosthenesAux (n : Nat) : Array Bool := Id.run do
let mut isPrime := Array.replicate (n + 1) true
isPrime := isPrime.set! 0 false
isPrime := isPrime.set! 1 false
for p in [2 : n + 1] do
if not isPrime[p]! then
continue
if p ^ 2 > n then
break
-- `p` の倍数を消していく
let mut q := p * p
while q ≤ n do
isPrime := isPrime.set! q false
q := q + p
return isPrime
/-- エラトステネスの篩 -/
def eratosthenes (n : Nat) : Array Nat :=
eratosthenesAux n
|>.zipIdx
|>.filterMap fun ⟨isPrime, i⟩ =>
if isPrime then some i else none
#guard eratosthenes 10 = #[2, 3, 5, 7]
#guard
let actual := eratosthenes 100
let expected := #[
2, 3, 5, 7, 11,
13, 17, 19, 23, 29,
31, 37, 41, 43, 47,
53, 59, 61, 67, 71,
73, 79, 83, 89, 97
]
expected == actual

ほとんどの関数型言語は、メモリ管理を自動で行うためにガベージ・コレクタを利用している。一方で、各値の正確な参照カウントを保持することで、破壊的更新などの最適化が可能になる。Lean は、純粋な関数型言語でありながら参照カウントを利用してメモリ管理を行う。参照カウントがちょうど1の値(つまり共有されていない値)を更新するとき、自動的に破壊的更新が行われる。すなわち、Lean は functional but in-place (FBIP) と呼ばれるプログラミングパラダイムに基づいている。特に、Lean で配列のようなデータ構造を扱うとき、FBIP によりコードの純粋性を保ちながら効率的なコードを生成することが可能である。これにより、Lean のコンパイラが生成するコードの効率化が図られている。
なお、FBIP というプログラミングパラダイムは Perceus アルゴリズムと同時に提案されたものであり、最初から Lean のためだけに開発されたものではない。
Lean が値の破壊的変更を行う例として、次のようなコードがある。
-- Lean のオブジェクトのメモリ上でのアドレスを取得する関数
-- 参照透過性を壊すため,unsafe である
#eval ptrAddrUnsafe #[1, 2, 3]
/-- フィボナッチ数列を計算する -/
def fibonacci (n : Nat) : Array Nat := Id.run do
-- 可変な配列 `fib` を宣言している
let mut fib : Array Nat := Array.mkEmpty n
fib := fib.push 0
fib := fib.push 1
for i in [2:n] do
-- ここで配列 `fib` のメモリアドレスを表示させている
dbg_trace unsafe ptrAddrUnsafe fib
fib := fib.push (fib[i-1]! + fib[i-2]!)
return fib
-- 値がコピーされていれば異なるメモリアドレスが表示されるはずだが...?
#eval fibonacci 15
ITP(対話的定理証明支援系)において、構文を拡張可能にすることは、複雑な数学的対象の表現や、ライブラリ開発における再利用可能な抽象化に関わる。Lean 3 のものを含め、既存の ITP のマクロシステムには、構文拡張の抽象化や名前の衝突に関する課題があった。
問題点は主に以下の2点である:
Lean 4 では、Scheme ファミリーに着想を得た新しいマクロシステムが導入された。このマクロシステムは、複数のマクロ抽象化レベルを単一のシステムで扱い、表現力と名前の衝突回避を両立することを目的としている。
たとえば、以下は Coq のライブラリ math-comp における和のΣ記号の定義である。ここでは、少しずつ異なる同様の定義が 12 回繰り返されている。
Reserved Notation "\sum_ i F"
(at level 41, F at level 41, i at level 0,
right associativity,
format "'[' \sum_ i '/ ' F ']'").
Reserved Notation "\sum_ ( i <- r | P ) F"
(at level 41, F at level 41, i, r at level 50,
format "'[' \sum_ ( i <- r | P ) '/ ' F ']'").
Reserved Notation "\sum_ ( i <- r ) F"
(at level 41, F at level 41, i, r at level 50,
format "'[' \sum_ ( i <- r ) '/ ' F ']'").
Reserved Notation "\sum_ ( m <= i < n | P ) F"
(at level 41, F at level 41, i, m, n at level 50,
format "'[' \sum_ ( m <= i < n | P ) '/ ' F ']'").
Reserved Notation "\sum_ ( m <= i < n ) F"
(at level 41, F at level 41, i, m, n at level 50,
format "'[' \sum_ ( m <= i < n ) '/ ' F ']'").
Reserved Notation "\sum_ ( i | P ) F"
(at level 41, F at level 41, i at level 50,
format "'[' \sum_ ( i | P ) '/ ' F ']'").
Reserved Notation "\sum_ ( i : t | P ) F"
(at level 41, F at level 41, i at level 50). (* only parsing *)
Reserved Notation "\sum_ ( i : t ) F"
(at level 41, F at level 41, i at level 50). (* only parsing *)
Reserved Notation "\sum_ ( i < n | P ) F"
(at level 41, F at level 41, i, n at level 50,
format "'[' \sum_ ( i < n | P ) '/ ' F ']'").
Reserved Notation "\sum_ ( i < n ) F"
(at level 41, F at level 41, i, n at level 50,
format "'[' \sum_ ( i < n ) '/ ' F ']'").
Reserved Notation "\sum_ ( i 'in' A | P ) F"
(at level 41, F at level 41, i, A at level 50,
format "'[' \sum_ ( i 'in' A | P ) '/ ' F ']'").
Reserved Notation "\sum_ ( i 'in' A ) F"
(at level 41, F at level 41, i, A at level 50,
format "'[' \sum_ ( i 'in' A ) '/ ' F ']'").
ほぼ同じことが Lean の数学ライブラリ mathlib4 では次のように表現されている。
syntax bigOpBinder := term:max ((" : " term) <|> binderPred)?
syntax bigOpBinderParenthesized := " (" bigOpBinder ")"
syntax bigOpBinderCollection := bigOpBinderParenthesized+
syntax bigOpBinders := bigOpBinderCollection <|> (ppSpace bigOpBinder)
syntax (name := bigsum) "∑ " bigOpBinders ("with " term)? ", " term:67 : term
これは Lean では syntax および declare_syntax_cat というコマンドが用意されていることと関係がある。Lean ではユーザが構文カテゴリを定義し、パーサの拡張を抽象化された高水準言語で行うことができる。これは Lean 3 までの静的なマクロでは不可能だった。
定理証明支援系のコミュニティにおいて、自動証明は大きな関心事である。典型的なものに SMT ソルバーを使用して証明を自動化しようとする試みがある。有名な例として、Isabelle における Sledgehammer が挙げられる。Lean にも SMT ソルバーに影響を受けた自動証明タクティクである grind が存在する。
grind には以下のような特徴がある。
grind の中核的な動作原理は合同閉包(congruence closure)であるが、補助定理を E-マッチングを用いてインスタンス化する機能を有しておりユーザが拡張可能である。grind は CIC の内部で直接動作し、検証可能な証明項を生成する。Isabelle の hammer が「証明目標を外部の論理体系へ変換して SMT ソルバーを呼び出して解く」のとは対照的である。grind は型クラスによってパラメトライズされた補助ソルバーを持ち、適切な代数的インターフェースを実装している任意の型に対して動作する。× に対する \times のようなLaTeXに似たシーケンスを使用して入力ができるようにする。