

京(けい、英: K computer)は、兵庫県神戸市の理化学研究所計算科学研究機構に設置、運用されていたスーパーコンピュータの名称(愛称)である。従来は「次世代スーパーコンピュータ」、「汎用京速計算機」、「京速」などと呼ばれていた。文部科学省の次世代スーパーコンピュータ計画の一環として、理化学研究所と富士通が共同開発した。「京」は、浮動小数点数演算を1秒あたり1京回おこなう処理能力(10ペタフロップス)に由来する。(富士通の)開発責任者は井上愛一郎。
総開発費1,120億円を投じ、2012年6月に完成、同年9月に共用稼働を開始。
TOP500で、2011年6月および2011年11月に1位になるが、完成直前の翌2012年6月には2位に、同年11月には3位に後退。この年1位の米タイタンは開発費が9,700万US$(約76.5億円)で17.59ペタフロップス。2013年6月に4位、2015年7月に4位となった。また2011年、2012年、2013年、2014年にHPCチャレンジ賞クラス1、2013年に日本初となるHPCチャレンジ賞クラス2を受賞。2011年、2012年にゴードン・ベル賞を受賞。2014年、2015年7月、11月、2016年7月、11月、2017年6月、11月、2018年6月、11月、2019年6月にGraph500で9期連続1位(通算10期)を獲得した。

次世代スーパーコンピュータプロジェクトは、2005年に文部科学省と理化学研究所で開始され、2006年に国家プロジェクトとなった。プロジェクトの目的は、過去に世界最高性能を記録した数値風洞、CP-PACS、地球シミュレータに続くナショナル・リーダーシップ・スーパーコンピュータ(NLS)の構築、およびプロジェクトを通じた計算科学・計算機科学分野の人材育成である。今後5-10年の計算需要に基づき、性能目標のひとつとしてLINPACKベンチマークでの10ペタフロップス達成を掲げた。
「京」は特定分野に特化した専用機ではなく、幅広い用途に応用できる汎用計算機として設計された。当初はベクトル機とスカラ機からなる「複合型」を計画・開発していたが、2009年5月にベクトル機を担当していたNECおよび日立が撤退したことにより、スカラ型のみの構成に設計変更された。この結果、CPUに富士通が設計・開発したSPARCベースのSPARC64 VIIIfxを採用し、Tofuと呼ばれる6次元メッシュ/トーラスのインターコネクトなど、富士通の技術を全面的に使用した計算機となった。その後、富士通は「京」のCPUをSPARC64 IXfxに変更して性能を向上させた市販モデルのPRIMEHPC FX10(w:PRIMEHPC FX10)を開発し、国内・海外に販売している。
なお、2009年11月の事業仕分けで事実上の凍結と判定されたことを機会として、各種の議論が行われたが、後に予算復活され、2012年6月に完成した。
開発中の2011年6月および2011年11月にTOP500で1位となり、2011年11月にHPCチャレンジ賞とゴードン・ベル賞を受賞した。また性能以外に安定性では、2011年11月のTOP500測定時に29時間28分の無故障動作を実測した。
2019年8月16日に計算資源の共用を終了し、そして8月30日にシャットダウンされ、2012年9月の運用開始から7年の歴史に幕を降ろした。
スーパーコンピューターとして7年の稼働は他種のスパコンと比べてかなりの長寿に当たる。
その後、性能が100倍程度に向上した後継機富岳(ふがく)に置き換えられ、2021年3月に運用が開始された。
2009年度の予定では、構築費は約1120億円(1020億円の国費と100億円の民間資金持出額)、また運用費は年額80億円(電力代22-29億円、計算機等保守費23-32億円、運営費12.6億円、その他保守費14-17億円)であった。
2012年9月の本格稼働後の報道では、京の開発費は総額1120億円で、うち665億円が富士通による演算装置の開発に投入され、富士通は演算装置の核となる半導体チップ開発用に三重工場に製造設備を新設した。しかし京稼働後の富士通のスーパーコンピュータ新製品ではチップ生産は台湾メーカーに委託し、三重工場は売却予定で、今後は製造ではなく設計に専念する。また開発過程の損失では、理研は撤退したNECに支払った70億円の返還を求めたが、民事調停による返還は2億円であった。運用終了後の再利用についても検討されたが、一式運用となると年間100億円、分割しての最小構成における運用であっても移送費や年間1億円の費用が掛かる事から断念した。
時期・用途・構成などは異なるが、他の主なスーパーコンピュータとの単純比較は下表の通り。
| システム名 | 構築費 (億円) |
運用費 (億円/年) |
性能 (LINPACK TFLOPS) |
備考 |
|---|---|---|---|---|
| 京 | 1120 | 80 | 10,000 | 2011/6 - 2011/12 TOP500 1位 |
| セコイア | 200以下 | - | 16,320 | 2012/6 TOP500 1位 |
| Tianhe-I | 71 | 16 | 2,566 | 2010/11 - 2011/6 TOP500 1位 |
| TSUBAME2.0(2010年時点) | 34 | 2 | 1,192 | 2010/11 - 2011/6 TOP500 4位 |
| Roadrunner | 118 | - | 1,375 | 2008/6 - 2009/11 TOP500 1位 |
| Blue Gene/L | 90 | - | 596 | 2004/11 - 2008/6 TOP500 1位 |
| 地球シミュレータ(当初) | 600 | 50 | 35.86 | 2002/6 - 2004/6 TOP500 1位 |
なお学生数、大学数、国家規模や研究規模が異なるため単純比較はできないが、米国のスーパーコンピュータ関連の国家予算は2008年度時点で年間約1500億円である。また日本の主要大学・公的研究機関の同予算は、事前評価が行われた2005年度時点で約260億円である。
2007年にエコノミストの池田信夫は、プロジェクトの目的が「世界一を取り返す」になっていること、「時代遅れ」のベクトル型を採用していること(最終的にはスカラ型になった)、巨額のプロジェクトがITゼネコン3社と随意契約されたことなどを背景に、「時代錯誤の大艦巨砲プロジェクトで効率が悪い」「スパコンの名を借りた公共事業」「『新たにCPUから作る』という計画が、ムーアの法則を無視した愚かな発想」と批判した。
2009年11月13日には「事業仕分け」で、当プロジェクトは「予算計上見送りに近い縮減」(事実上の凍結)と判定されたが、この際の両者の主な主張は以下であった。
なお理化学研究所の平尾公彦副本部長(前東京大学副学長)は、「国民に夢を与える、あるいは世界一を取ることによって夢を与えることが、実は非常に大きなこのプロジェクトの一つの目的でもあります」と述べた。
事業仕分けを契機に、以下を含めた多数の発言や議論が行われた(直後の発言は歴史を参照)。
2002年度には、既に関連要素技術の先行研究開発が開始されており、それらは次の通り。
| PHASE | 大テーマ | 時期 | テーマ | 目的の詳細 | 課題 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| PHASE_1 | グリッドミドルウェア | 2003〜2010年度 | 遠隔利用と外部接続支援 | 各地に散在するHPC間の連携基盤の提供。 | 個別に構築されたシステム間の連携(効率とバランスの考慮) | 一部は、既にSuperSINETやTSUBAME、Super Cluster、Bio Grid等で実現済み。今後、国際連携に向けた国際標準化等の様々な課題解決に向けた実験や検証計画の方向性とコンセンサスの生成が必要。 |
| PHASE_2 | 異機種統合ソフトウエア | 2006〜2010年度 | 異なるアーキテクチャーのシステムを統合するフレームワークの開発 | 各地に散在する実験装置、データベース、スーパーコンピュータをどこからでも活用可能なユビキタス研究開発環境の構築。 | アーキテクチャーの違うコンピュータ群を接続するための、共通ライブラリ等の構築 | 米国にて構築中のNLS等との間でも情報交換を進めている。将来的には、三極全体で相互利用可能な環境を目指している。 |
| PHASE_3 | グランドチャレンジアプリケーション(NAREGI) | 2003〜2010年度 | 次世代ナノ統合シミュレーションの研究開発 | 次世代ナノ統合シミュレーションとは、ナノ新材料・新機能(新半導体材料等)を創出するなど、最先端の知的ものづくりを支援するために、ナノ材料系全体シミュレーション基盤ソフトウエアの研究開発を行う。 | ナノ材料の物理的特性を生かしたシミュレーションソフトウエアの開発。材料工学、量子力学等の分野の学際連携 | 新半導体材料のみならず、生体機能分子や様々な産業用機能分子等のシミュレーション技術が望まれている。なぜならば、これらの素材が新しい産業に与える影響が大きいためである。 |
| 2006〜2012年度 | 次世代生命体統合シミュレーションの研究開発 | 次世代生命体統合シミュレーションとは、テーラメイド医療・創薬等を実現するために、遺伝子レベルからたんぱく質レベル、さらには細胞レベル、そして臓器機能レベルに至るまで人体スケールの個々の要素から全体に至るまで人間系を最適に解析可能な総合シミュレーション基盤の研究開発を行う。 | ゲノム工学からたんぱく質工学へ、さらにその先にある機能工学を目指した研究 | ゲノム創薬や高度な外科手術(遠隔手術)、遠隔診断等を支援するソフトウエア開発。さらには、人体の構成要素全体をシミュレーションする統合シミュレーション環境の構築。 | ||
| PHASE_4 | マルチスケール・マルチフィジックス系全体のシミュレーション | 2005〜2007年度 | 革新的シミュレーションソフトウエアの研究開発 | 連続体や離散系にかかわらずスケールの異なる物理現象を対象とした、統一したシミュレーション環境とフレームワークを開発することが目標。 | 各スケール毎に最適化された、境界解析手法、熱力学解析等を組み込んだライブラリ群と、それを活用するためのツール群 | ナノテクノロジー分野、エンジニアリング分野、ライフサイエンス分野、防災分野等である。この成果は、事業化も視野にいれて最終段階に向けて基礎研究が終わろうとしている。 |
| 2006〜2011年度 | 次世代高精度・高分解能シミュレーションの開発 | 複数の現象が相互に影響しあうようなマルチスケール・マルチフィジックス現象の解析を実現する効率的な計算手順を確立し、複雑な工業製品の設計・開発などの先端シミュレーション技術の開発が目的。 | アット・スケール、フェムト・スケール、ナノスケールからメートル・スケール、天文単位、パーセク・スケール、メガ・パーセクスケールまで、観測・観察データとの整合性を取るモデル計算手法の開発 | 理学・工学・医科学等の理科学全体の学際研究分野。 |
| PHASE | 大テーマ | 時期 | テーマ | 目的の詳細 | 課題 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| PHASE_1 | 次世代HPC用ハードウェア研究開発 | 2005〜2007年度 | システムインターコネクト技術の研究開発 | 大型システム内の内部結合をより高速により効率的に行う仕組みであるインターコネクト技術において、次世代HPCにて使用可能なレベルまでのより高速化と省電力化を目標とする。 | スカラ分散、ベクトル分散型にかかわらず、相互に接続されたシステム全体のデータ通信の最適化及び半導体設計・製造技術の確立 | 同期設計の場合、半導体のダイ(パッケージを含めるとチップ)や半導体を乗せる基板の設計は、光の速度に依存するクロック数を上げると、その大きさをより極小化しなければならないという問題があり、これを克服するために、電子の高速移動が可能な半導体の開発と光技術の活用等が求められている。 |
| 内部結合IP化による実効効率最適化方式 | システム内部の機能要素にIPアドレスを与え、それぞれの機能要素のリソースをモニタリングすることによって、最適なジョブ分割を行いスレッドを機能要素に送り込む技術の開発。 | ダイナミックアルゴリズムやスタティックデータフロー技術の確立 | IPv6やダイナミックIP等の技術が活用される予定。 | |||
| 低電力高速デバイス・回路技術・論理方式 | 将来予測される45nmプロセスの半導体を実現するために必要な技術開発を行うことが目的。 | 安定した3次元集積回路や45nmプロセスを達成するために必要とされる、半導体製造技術の確立 | ポストシリコン、非同期設計等の基礎的研究開発を進めることが重要であるとの認識から研究開発が進められている。なお、一部の研究開発はCOEプログラムとして採択済み。 | |||
| CPU・メモリ間光配線技術 | 将来予測される量子コンピュータや既存のコンピュータのCPUとメモリ間において、直接光結合を行うことによって、帯域損失の少ない高速の通信を可能にする光インターコネクション技術開発を行うことが目標。 | PE内部に光インターコネクションを設けるための設計・製造技術の確立 | コンピュータを小型化する事は、省電力性向上と高性能化を図るには必須であり、配線を減らすための光インターコネクション技術の研究開発が行われている。 | |||
| PHASE_2 | 通信・演算情報の爆発的増大に備える超低消費電力技術の創出 | 2005〜2011年度 | 次世代の汎用高速計算機構築に向けて、消費電力あたりの処理性能を100倍から1000倍にする超低消費電力技術の確立のための基礎研究 | 既存の技術においてもトランジスター数で2.5億を超えており、将来は3億から6億にも達する。この時、半導体の温度がベース材料の融点に達する予測もある。この過酷な条件を乗り越え、次世代の計算機技術である新たな素子製造基盤を確立するための超薄膜半導体デバイスや光量子デバイス、さらには高温超伝導を含む新規デバイス構築技術の確立が目標とされる。 | 新規デバイス技術。現在、有力視されているのは、高温超伝導、ポストシリコン。量子コンピューターは、次次世代以降の確立予定 | このテーマでは、現在進められているシミュレーション技術、半導体プロセス技術、高温超伝導技術等の多観点から研究開発を行い、超低消費電力デバイスの研究開発が行われる予定。なお、薄膜超伝導や量子干渉素子等で培われた超微細構造加工技術や量子状態を観測できる量子ホログラフィック顕微鏡等も活用する予定。 |
下表は2006年初頭時点の予定表である。
| PHASE | 時期 | 項目 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 設計 | 2006〜2007年度 | ユーザーヒアリング、性能見積、ハードウエアの仕様検討 | 仕様項目の洗い出し、目標性能を達成するための性能見積もり、複数のハードウエアの仕様検討 |
| 実装技術の製造と評価 | 2008〜2009年度 | 回路設計、LSI化、基板製作、試作機組み立て、評価 | 開発ベンダーの選定、回路設計、試作機(最高性能の10%〜50%程度の機種構築)の構築 |
| 実機製作 | 2009〜2010年度 | システム全体の製作、特定処理計算加速部の完成→性能評価 | 試作機を元にした特定処理計算加速部の完成、LINPACKによる性能評価 |
| システム強化 | 2011〜2012年度 | 大規模計算処理部と逐次処理計算処理部のシステム強化→総合評価 | 試作機において製作した大規模計算処理部と逐次処理部(現在の予定ではベクトル型とスカラ型混在の見込み。大規模ベクトル型と大規模スカラ型の混在に関しては技術的挑戦となるため、ベンダー間での調整が行われると思われる)のPE数を増やすことで、システムの強化を行う(数値風洞シミュレータと同じ手法)。この頃までには新たな性能評価の指標値における議論が決するため、新基準に基づく性能評価を行う予定 |
以後は歴史を参照。
富士通の一般販売商品は PRIMEHPC FX10で、2011年11月7日に販売開始、2012年1月より出荷。京との比較で、値段据え置きで、CPUの性能が2倍弱速くなった。
FX10 の後継機種である。
建屋は、計算機棟・研究棟、熱源機械棟、特高施設棟の4棟からなり、設計は日建設計、施工は大林組で2010年に竣工。計算機・研究棟は1体構成となっており、1.5tもの計算機筐体が864台から構成され、計算機室は床耐荷重を確保した上で60m*50mの無柱空間(3000m2)が確保されている。
| 棟 | 計算機棟 | 研究棟 | 熱源機械棟 | 特高施設棟 |
| 構造 | 鉄骨 地上6階地下1階 | 鉄骨 地上3階地下1階 | RC 地上2階 | Rc 地上2階 |
| 建築面積 | 1800m2 | 4300m2 | 1900m2 | 200m2 |
多額の開発費が仕分け会議で指摘されたこと、稼働停止直前の段階でも日本屈指の性能を有していたことから、京の再利用も模索された。しかし、最低の構成単位に分割しても冷却装置などの新設が必要となり移設費用に6000万円、年間の維持費に1億円以上掛かるうえ、今後のメンテナンスも望めなくなることから実現は困難と判断されている。
2011年7月1日、計算科学機構の最寄駅にあたる神戸新交通のポートアイランド線「ポートアイランド南駅」(2006年2月2日開業)が、「京コンピュータ前駅」に改称された。しかし、京の運用停止を受け、2021年6月19日に駅名は「計算科学センター駅(神戸どうぶつ王国・「富岳」前)」に変更された。
| 記録 | ||
|---|---|---|
| 先代 天河一号A(中国) 2.566 ペタFLOPS |
ランキング「TOP500」において1位 2011年6月 – 2012年6月(2連覇) 記録:10.51 ペタFLOPS |
次代 IBM セコイア(米国) 16.325 ペタFLOPS |
| 先代 IBM セコイア(米国) 15363 ギガTEPS |
ランキング「Graph500」において1位 2014年6月 記録:17977 ギガTEPS |
次代 IBM セコイア(米国) 23751 ギガTEPS |
| 先代 IBM セコイア(米国) 23751 ギガTEPS |
ランキング「Graph500」において1位 2015年6月 – 2019年6月(9連覇) 記録:38621 ギガTEPS, 31302 ギガTEPS |
次代 神威・太湖之光(中国) 23756 ギガTEPS |
座標: 北緯34度39分12.1秒 東経135度13分13.7秒 / 北緯34.653361度 東経135.220472度