FLAME VEIN
背景
BUMP OF CHICKENは1996年2月11日に現在のメンバー4人で初めてステージに立ち、1998年10月24日には自身初のCD作品となるデモ『BUMP OF CHICKEN』を500枚限定で発売した。本作はその翌年に発表された、バンド初のアルバム作品である。
増川弘明 は本作について「その当時ある曲をすべて録った」アルバムだったと述べている。当初のインディーズ盤は7曲入りであり、再発盤に収録された「バトルクライ」は、トイズファクトリーから再発された際に追加された。
当時、メンバーにとってCDでアルバムを作ることは大きな出来事だった。直井由文 は、当時の周囲ではカセットテープを手売りするバンドが多く、CDでジャケット付きのアルバムを出すこと自体に強い憧れがあったと振り返っている。また、増川は、本格的なスタジオで録音すること自体が初めてに近く、ミックス、トラックダウン、オーバーダビングといった言葉もほとんど分かっていない時期だったため、すべてが新鮮だったと語っている。
録音と制作
本作の収録曲のうち「アルエ」「ナイフ」「リトルブレイバー」は、アルバム制作以前に録音されており、500枚限定で発売された8cmCD『BUMP OF CHICKEN』に収録されていた。アルバム制作時には、残る4曲を3日間で録音したという。升秀夫 は、この時の録音について、ドラム、ベース、ギターを順に重ねるのではなく、ベーシックを一発で録るライブレコーディングに近い感覚だったと述べている。増川によると、ベーシックのギターはメンバーと一緒に一発録りした上で、別のギターを重ねる作業も行われた。藤原基央 は、歌は最後の日にまとめて録音したように記憶していると語っている。また、「ノーヒットノーラン」以外の収録曲はすでにライブで演奏されていた。
藤原は後年、本作の制作時点では音作りの知識が十分ではなかったと振り返っている。例えば「ナイフ」または「リトルブレイバー」のギターソロで、自分の頭の中に鳴っている音を実現したいと思い、エンジニアに対して、風呂に沈めたタライの栓を抜いた時に水が溢れるような音を入れたいと説明したという。藤原は後に、それがオルガン のグリッサンドで表現できる音だったと理解したが、当時はその知識がなかったため、比喩を用いて必死に伝えていたと述べている。
一方で、藤原は当時のバンドについて、技術や知識に裏づけられた自信ではなく、4人でいることや4人で音を出すことへの強い信頼があったと語っている。直井も、当時は他者との実力差を見ないようにしていた部分があり、音楽を技術的に聴く耳も十分ではなかったと述べている。藤原は、本作を録音したことで「本当はもっとこうしたいのに、できない」という大きな悔しさも生まれたと語っており、本作を、当時の4人が体を張って作った7曲が収められたアルバムとして位置づけている。
アートワークとタイトル
歌詞カードはすべて藤原の手書きで制作された。藤原は当時、直井と同じカフェでアルバイトをしており、休憩時間を使って歌詞やイラストを書いていたという。歌詞カードには「CHICKEN'S MOVIE FILM」として、自分の居場所を探す猫「ニコル」の物語も書き込まれている。
インディーズ盤の帯には「情熱は約束を守る」というコピーが掲げられた。このコピーは藤原ではなく、ハイラインレコーズの北岡一哲が考案したものである。藤原によると、北岡は「帯を俺に書かせてほしい」と強い情熱を持って申し出たという。当初は複数の候補があり、最終的に「情熱は約束を守る」が採用された。
タイトルの『FLAME VEIN』は、「炎の脈」「情熱の静脈」といった意味を持つ言葉である。レコーディング中に血管が浮き上がっているのを見たことから思いついたとされる。
リリース
1999年3月18日にハイラインレコーズから発売された。発売後もメンバーはハイエース でツアーを回っており、直井は、アルバム発売によって急激に状況が変わったわけではないが、それ以前は観客が数人だったところから、少しずつ観客が来るようになっていったと振り返っている。
2004年4月28日には、トイズファクトリーから再発盤『FLAME VEIN +1』が発売された。再発盤には、廃盤となっていた1stシングル「LAMP」のカップリング曲「バトルクライ」が追加収録された。配信・ストリーミング版も『FLAME VEIN +1』として配信されている。
評価
音楽ライターの鹿野淳 は、2024年の『MUSICA 』におけるディスコグラフィ回顧で、本作について「BUMP OF CHICKENの見事な礎」が詰まっていると述べ、当時、音楽業界の関係者がこのバンドの将来性を本作で確信したと語っている。
メンバー自身も、本作を初期の重要作として位置づけている。直井は、本作の収録曲について、今なおライブで演奏し続けられることが嬉しいと述べている。藤原も、本作の曲を「一番古い仲間達」と表現し、今でもライブで新たな表情を見せる楽曲群であり、曲と一緒に行ける世界の深さや高さが更新され続けていると語っている。
収録曲
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CD 全作詞・作曲: 藤原基央、全編曲: BUMP OF CHICKEN。 # タイトル 作詞 作曲・編曲 時間 1. 「ガラスのブルース 」 藤原基央 藤原基央 6:18 2. 「くだらない唄 」 藤原基央 藤原基央 4:03 3. 「アルエ 」 藤原基央 藤原基央 4:18 4. 「リトルブレイバー 」 藤原基央 藤原基央 5:13 5. 「ノーヒットノーラン 」 藤原基央 藤原基央 4:25 6. 「とっておきの唄 」 藤原基央 藤原基央 5:36 7. 「ナイフ 」 藤原基央 藤原基央 6:31 8. 「バトルクライ 」 藤原基央 藤原基央 4:37 合計時間:
41:01
隠しトラック 全作詞・作曲: BUMP OF CHICKEN(※特記以外)、全編曲: BUMP OF CHICKEN。 # タイトル 作詞 作曲・編曲 1. 「ドッキング」 BUMP OF CHICKEN(※特記以外) BUMP OF CHICKEN(※特記以外) 2. 「DANNY」(※作詞・作曲: 藤原基央) BUMP OF CHICKEN(※特記以外) BUMP OF CHICKEN(※特記以外) 3. 「マイ ベスト フレンズ」 BUMP OF CHICKEN(※特記以外) BUMP OF CHICKEN(※特記以外)
楽曲解説
ガラスのブルース
藤原が初めて日本語で書いた楽曲。藤原は、これ以前には適当な英語を並べてグリーン・デイ やオフスプリング 風の曲を作ることで満足していたが、ある音楽関係者から「まず日本で通用する詞を書け」と言われたことが、本曲へつながっていったと語っている。藤原によると、当時は高校を辞め、アルバイトをしながらギターを弾き、少しずつ曲を作っていく生活を送っており、その中で本曲を書いたという。
藤原は完成直後、本曲を増川に最初に聴かせた。増川は、藤原が自信なさげに聴かせてきた本曲を「100点満点で120点くらい褒めちぎった」と振り返っており、それまでの英語詞の楽曲とは違い、友人の口から出る日本語の歌がそのまま身体に染み込んできたことに衝撃を受けたと語っている。藤原も、地元の友人に聴かせた際、それまでの「かっこいい」という反応とは異なり、「もう一回聴かせて」「お前、こんなことを考えてたんだね」と言われたことで、「人に何かを伝える」ということを初めて体感した曲だったと述べている。升も、本曲を演奏した時に周囲の反応がそれまでと全く違い、「音楽が伝わる」ことを初めて体感したと語っている。
バンドにとってアンセム的な立ち位置の楽曲であり、デビュー前には本曲を携えて「Beat Brust in Japan」などの大会に出場した。ライブではアンコールで演奏されることが多い。 MV は、藤原の手書きイラストを使用したアニメーション 風に仕上げられている。掲載されている歌詞と、一部異なる部分がある。
ライブでは、増川がコーラスを担当する珍しい楽曲である。
14枚目のシングル「メーデー 」のカップリングに、「28 years round」と題したアコースティックバージョンが収録されている。
藤原は歌詞カードで「HEART」と書くべき部分を間違えて「HERAT」と書いている。
ベストアルバム『BUMP OF CHICKEN I <1999-2004> 』に収録されている。
NHK の番組「SONGS 」でBUMP OF CHICKENの特集が組まれた際(2015年 )、この曲をスタジオライブ形式で演奏した。アレンジは2015年時点のライブでのものだった。
くだらない唄
藤原が、当時住んでいた東京都内から、直井の実家での練習へ向かうために都営新宿線で本八幡方面へ移動していた時に、頭の中で作った楽曲である。藤原は当時、毎週火曜日に直井の家で練習しており、初台から臼井駅まで電車で向かう途中に本曲を作ったと語っている。
藤原によると、本曲ではスマッシング・パンプキンズ などのオルタナティヴ・ロックから知ったオクターブ奏法への関心が反映されており、オルタナティヴ・ロックとブリットポップのハイブリッドのような感覚もあったという。
歌詞中に登場する場所にはモデルが存在しており、次作『THE LIVING DEAD 』には続編的な楽曲「続・くだらない唄」が収録されている。
ドラマ『天体観測 』挿入歌。
ベストアルバム『BUMP OF CHICKEN I <1999-2004>』に収録された。
アルエ
庵野秀明 監督のアニメ『新世紀エヴァンゲリオン 』に登場する綾波レイ をモチーフにした楽曲。タイトルは綾波レイのイニシャルである「R.A.」に由来する。藤原は、当時メンバーの間で綾波レイが大きな話題になり、「じゃあ俺、曲作るわ」というテンションで制作したと語っている。ただし、藤原は当時テレビアニメ版をまだ視聴しておらず、増川に薦められた貞本義行 による漫画版を3巻まで読んだ時点の気持ちで書いたとも述べている。
直井は、当時『新世紀エヴァンゲリオン』を第1話から視聴しており、放送日に仕事を早く上がってテレビの前で待機するほど熱中していたと語っている。メンバー間でも同作の話で盛り上がっており、藤原が本曲を書いてきた際、直井はタイトルの由来を聞いて「めっちゃいいじゃん」と感じたという。
藤原は、本曲のBメロでは「ガラスのブルース」のイントロでも用いた分数コードの感覚を活用したと語っている。藤原は当時、教則本で学んだローコードだけでは頭の中にある響きを再現できず、自分で押さえ方を探しながら作曲やアレンジに活用していたという。
再発盤の先行シングルとして2004年 に7thシングルとしてリカットされた。
リトルブレイバー
のちに、1stシングル「LAMP」のカップリングとしてシングルカットされた。
藤原は本曲について、作った後になって自分の中にあったサザン・ロックの表現だったと分かったと述べている。AメロにおけるD、C、Gというコード進行に、藤原がサザン・ロックの中で好んでいたエッセンスの一つを表現できた感覚があったという。また、初期の楽曲の中でも、コード進行に感じるドラマを最初にしっかり表現できた曲だったと語っている。
藤原によると、本曲の頃には、パワーコード中心だった「ガラスのブルース」から、アルペジオ、クリーントーン、アコースティックギターなどへ表現の幅が広がり始めていた。一方で、当時はアンサンブルや録音に関する知識がまだ十分ではなく、後年聴くと悔しさを感じる部分もあるという。
インディーズ時代から2003年頃にかけては、この曲がライブで演奏される際、前奏に入る前に藤原の弾き語りが入ることがあった。
非常に小さくて聞こえにくいが、最初の、「ワン、ツー、スリー」の「ツー」あたりで、「あ、録れた」という声が聞こえる。
近年ではライブではあまり演奏されないが、2004年頃までは定番曲のように頻繁に演奏されていた。
ノーヒットノーラン
タイトルの「ノーヒットノーラン 」は野球用語であるが、本曲は投手側ではなく、打者側の心情を描いた楽曲となっている。藤原は、本曲について、追っかけコーラスがうまくいったと感じた楽曲であり、「こういうのも楽しい」と思ったと語っている。
とっておきの唄
藤原がラブソングとして言及している楽曲の一つ。藤原は、本曲について「奇跡的にいろいろうまくいった曲」と述べている一方、今振り返ると「やりたかったんだけどできてない」と感じる部分もあると語っている。
また、藤原は「リトルブレイバー」を最初に録音してから約1年後に「とっておきの唄」を録音したと述べており、その頃には、鳴らし方や響き方について自分たちなりの答えを少しずつ用意でき始めていたと振り返っている。
ドラマ『天体観測』挿入歌。
ナイフ
「アルエ」「リトルブレイバー」とともに、アルバム制作以前に録音されていた楽曲。また、1997年夏に制作された最初のデモテープ『NO REASON』で「アルエ」「ガラスのブルース」とともに録音した。
藤原は公式サイトのインタビューで、本曲について「初めて書いたリフの曲」と語っている。当時、音楽関係者から「リフの曲はないのか」「リフを書かないのか」と言われたことをきっかけに、リフのある楽曲を書いてみようと考え、本曲が生まれたという。
間奏部分にわざと藤原の咳 が録音されている(デモテープの「ナイフ」には、本当の咳が録音されている)。途中には、アマチュア時代を思わせる英詞が入る。この曲をレコーディングした当日藤原は風邪であった。
ドラマ『天体観測』挿入歌。
バトルクライ (再発盤のみ)
1stシングル『LAMP 』カップリング曲。『LAMP』の廃盤により再収録された。再発盤の歌詞カードにはこの曲の歌詞が載っておらず、CDトレイの下に隠されている。
隠しトラックに「ドッキング 」(作詞・作曲:BUMP OF CHICKEN)、「DANNY 」(作詞・作曲:藤原基央)、「マイ ベスト フレンズ 」(作詞・作曲:BUMP OF CHICKEN)が収録されている。
隠しトラックは「ガラスのブルース」の前の先頭ギャップ(プリギャップ)部分に収録されており、1曲目を(再生時間0分0秒から)巻き戻すことで聴くことができる。しかし、パソコン や一部のCDプレイヤーなど巻き戻すことができない機器では再生不可能である。
「DANNY」はBUMP OF CHICKENが発表したものとしては最古の楽曲となっている。メンバーが高校1年生の時に作曲されたもので、全編英詞である。また、BUMP OF CHICKENの作品に隠しトラックとして収録されている楽曲の中では唯一ライブで演奏経験のある楽曲である。現在のメンバー4人で初めて人前に立った1996年2月11日の「TEENS' MUSIC FESTIVAL」で演奏された楽曲でもある。藤原は、友人が家出した際、夜中の公園のベンチに毛布とギターを持って行き、その友人の話を聞きながらギターを弾いているうちに本曲を作ったと語っている。藤原によると、本曲は英詞こそ「適当」だったものの、自分の中に昔からあったものを出した感覚があり、後にグリーン・デイを知ったことで「あれもパンクだった」と理解したという。
「ドッキング」「マイ ベスト フレンズ」を歌っているのは「グッドマナーズ」である。
脚注
注釈
↑ 「臼井ブレーブス優勝」や「踏切が上がらない」など。
↑ BUMP OF CHICKENのカップリング曲の中でもアルバムに収録された数少ない例であり、カップリング集を除けば唯一。
参考文献
鹿野淳「BUMP OF CHICKEN Breaks Down Their Discography!!」『MUSICA』第18巻第10号、FACT、2024年10月15日、32 - 41頁。