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ユーザーのアカウントパスワードを要求する初期ロック解除ダイアログ | |
| 開発元 | AgileBits Inc.(1Password) |
|---|---|
| 初版 | 2006年6月18日 |
| プログラミング 言語 | Rust(共通コアライブラリ) |
| 対応OS | |
| プラットフォーム | ウェブブラウザ拡張機能: |
| 対応言語 | 多言語(日本語を含む) |
| 種別 | パスワードマネージャー |
| ライセンス | プロプライエタリ・サブスクリプション(SaaS) |
| 公式サイト |
1password |
1Password(ワンパスワード)は、カナダ・トロントのソフトウェア企業AgileBits Inc.(1Passwordの名で事業を行う)が開発・提供するパスワードマネージャーである。利用者はパスワード、パスキー、クレジットカード情報、ソフトウェアライセンスなどの機密情報を「保管庫」(vault)と呼ばれる暗号化された領域に保存し、ウェブブラウザやアプリのログインフォームへ自動入力できる。macOS、iOS、Android、Linux向けのアプリと、主要ブラウザ向けの拡張機能が提供されている。
2005年にDave TeareとRoustem Karimovが自分たちのウェブ開発業務の手間を省く週末のサイドプロジェクトとして開発を始め、2006年6月にMac向けの1.0を公開した。当初は個人向けの買い切り型ソフトウェアであったが、2015年のチーム向け製品を起点に法人市場へ展開し、2010年代後半以降はクラウド上の保管庫を月額制で提供するサブスクリプション型サービスへ移行した。2019年に創業以来初の外部資金としてベンチャーキャピタルのアクセルから2億ドルを調達し、2022年1月にはカナダ企業として当時最大となる6億2000万ドルの資金調達で企業評価額68億ドルに達した。
2020年代には、パスワード管理に加えて機械やAIエージェントが用いるシークレットの管理、端末の健全性確認、SaaS利用状況の把握などへ製品領域を広げ、2024年に「Extended Access Management」(拡張アクセス管理)、2026年に「Unified Access」と呼ぶ法人向けプラットフォームを発表した。2025年11月時点で年間経常収益は4億ドルを超え、法人顧客は18万社、従業員は約1,400人である。
1Passwordは、トロントでウェブサイト開発を請け負っていたDave TeareとRoustem Karimovが、開発中のサイトをテストするたびにユーザー名やパスワード、連絡先を手入力する手間を省くために作ったツールに始まる。この週末のサイドプロジェクトはやがて本業を上回る規模になり、会社と製品分野そのものを生み出したと同社は説明している。最初の版は2006年に2人がPowerBook G4上で開発したMac用アプリで、4人の小さなチームが担当した。開発会社のAgileBits(当初はソフトウェア開発・コンサルティング会社として設立)は、TeareとKarimovに加えてSara TeareとNatalia Karimovの4人が共同創業者である。
AppleがiPhone SDKを公開すると、同じチームがiPhone向けの1Passwordを開発した。当時は端末間のデータ同期にDropboxが用いられ、その後Androidなど他のプラットフォームにも開発者を雇用して展開した。初期の1Passwordは1本ごとに購入する買い切り型で、2014年時点の価格はMac版が49.99ドル、iOS版が17.99ドルであった。AgileBitsは同年時点で、全プラットフォームを合わせて200万〜300万本が販売または配布されたと推計している。
2012年6月、ウォータールー大学出身のJeff Shinerが最高経営責任者(CEO)に就任した。当時の従業員は約20人であった。Shinerは個人向けに支持されていた製品を法人向けに再構築する方針を取り、2015年11月3日に管理コンソールと共有保管庫を備えたチーム向け製品「1Password for Teams」の公開ベータを開始した。同社によれば、2018年4月までに3万社超がTeamsに登録し、同月には大企業向けの管理機能を加えた「1Password Business」が発表された。
この時期には、国境検問所などで端末の開示を求められた際に指定した保管庫だけを端末から除外する「トラベルモード」(2017年5月)、デスクトップアプリを必要としないブラウザ単体の拡張機能「1Password X」(2017年11月)、Macアプリの第7版(2018年5月)、パスワードの安全性を診断する「Watchtower」の刷新(2018年5月)が相次いで導入された。1Password 7は従来の買い切り版と異なりサブスクリプションを基本とし、永久ライセンスはアプリ内購入として残された(2018年時点で64.99ドル)。2018年7月には、AppleがApple Storeのスタッフを含む全従業員約12万3000人へ1Passwordを提供する計画だと米BGRが報じ、ITmediaがこれを伝えた。BGRはAppleによるAgileBits買収の可能性にも触れたが、AgileBitsは即座にこれを否定した。
AgileBitsは創業から14年間、外部資本を入れずに黒字を維持してきたが、2019年11月14日、ベンチャーキャピタルのアクセルがシリーズAラウンドで2億ドルを投資し少数株式を取得すると発表した。これは1Passwordにとって初の外部資金調達であり、アクセルにとっても単一ラウンドとして過去最大の投資であった。ラウンドにはSlack FundやAtlassianの共同創業者らも参加した。同社は当時、従業員が2人から176人に増えていたと述べている。
2020年から2021年にかけて製品の対応範囲が広がった。2020年9月にはPrivacy.comと提携し、使い捨ての仮想クレジットカード番号を1Passwordから生成できる機能を米国向けに提供した。同年11月にはMac版7.7でApple Watchによるロック解除とSafariでのインライン入力補完に対応し、Apple Siliconでネイティブ動作するベータ版も公開された。2020年10月にベータ版が公開されたLinux向けデスクトップアプリは2021年5月18日に正式版となり、Debian、Ubuntu、Fedora、Arch Linuxなどの配布形式が用意された。
2021年4月13日、同社はAPIトークンや証明書などインフラのシークレットを管理する「1Password Secrets Automation」を発表し、同時にオランダのシークレット管理企業SecretHubの買収を完了した。SecretHubのチームとCEOのMarc Mackenbachは1Passwordに合流した。同年7月にはアクセル主導のラウンドで1億ドルを調達し、企業評価額は20億ドルとなった。あわせて、サインインの記録をSplunkなどのセキュリティツールへ取り込むAPIとDevOpsチーム向けのLinuxアプリが公表され、有料の法人顧客は約9万社、年間経常収益(ARR)は1億2000万ドルに達したとされる。同年9月にはメールサービスFastmailと提携し、サインアップ時に使い捨てのメールアドレスを生成する「Masked Email」を導入した。
2021年8月、共通のコアライブラリ上に全プラットフォームのアプリを作り直す「1Password 8」のMac版早期アクセスが始まり、2022年5月3日に正式版が公開された。iOS版とAndroid版の第8版は同年8月に公開された。バージョン8では保管庫をローカルにのみ保存する選択肢が廃止され、批判を浴びた。
2022年1月19日、ICONIQ Growth主導のシリーズCラウンドで6億2000万ドルを調達し、企業評価額は68億ドルに達した。カナダ企業として史上最大の資金調達額であり、アクセル、Tiger Global、Lightspeed Venture Partnersのほか、俳優のライアン・レイノルズ、ロバート・ダウニー・ジュニア、スカーレット・ヨハンソン、歌手のジャスティン・ティンバーレイクら著名人も個人投資家として参加した。従業員数は2020年の177人から2022年1月時点で約570人に増え、同社は調達資金で1,000人以上へ拡大する計画を示した。同年3月には開発者向けにSSH鍵の生成・保管と、鍵の利用要求をTouch IDなどで承認するSSHエージェント機能を提供し、11月3日にはテキサス州オースティンのパスワードレス認証企業Passageを買収し、パスキーを軸とする認証基盤の開発に着手した。
2023年には法人向けにアイデンティティプロバイダーとの連携が進んだ。1月に公開プレビューが始まった「Unlock with Okta」は3月8日に全1Password Business顧客へ提供され、6月にはOpenID Connectに対応する任意のプロバイダー(Duo、OneLogin、JumpCloudなど)で1Passwordのロック解除ができるようになった。6月6日にはブラウザ拡張機能のベータ版でパスキーの保存とサインインに対応し、同年中に法人向けのパスキー機能を提供した。7月31日にはDatadogとのSIEM連携を発表した。9月には年間経常収益が2億5000万ドルを超え、その3分の2超を10万社以上の法人顧客が占めるようになった。同年、アクセルのベンチャーパートナーで、Qualtricsの最高財務責任者などを務めたDavid Faugnoが社長兼最高執行責任者として入社した。
2024年2月20日、ボストンの端末セキュリティ企業Kolideを買収した。Kolideは、会社のアプリケーションへアクセスする端末の健全性を確認し、条件を満たさない端末をブロックしたうえで利用者自身に修正手順を案内する製品を提供しており、30人のチームが1Passwordに加わった。創業者のJason Mellerは1Passwordのプロダクト担当バイスプレジデントに就いた。これを基盤として同社は2024年5月、IDプロバイダーや端末管理の対象外にある未管理のアプリや端末からのサインインまで統制することを掲げる新カテゴリー「Extended Access Management」(XAM)を提唱し、同名の製品群を発表した。同年7月にはISO/IEC 27001、27017、27018、27701の認証取得を発表している。11月にはFaugnoがShinerと並ぶ共同CEOとなった。
2025年1月7日、イギリスのSaaSアクセス管理企業Trelicaを現金と株式で買収した。Trelicaは組織内で使われている未把握のSaaSアプリを発見し、アクセスを管理する技術を持ち、23人のチームが合流した。同社はこれを売上規模で過去最大の買収と説明している。2月にはF1チームのOracle Red Bull Racingと複数年のサイバーセキュリティパートナー契約を結び、同月19日にマネージドサービスプロバイダー(MSP)向けの「1Password Enterprise Password Manager - MSP Edition」を発売した。この時点で法人顧客は15万社を超え、売上の75%を法人が占めていた。4月22日にはAIエージェントの認証情報とアクセスを人間と同じ基準で統制することを掲げる「Agentic AI Security」機能群をXAMに追加した。
2025年6月16日にはAmazon Web Services(AWS)と戦略的協業契約(SCA)を締結し、AWS Secrets Managerとシークレットを同期する統合機能を発表した。7月17日、13年間CEOを務めたShinerが取締役会のエグゼクティブチェアマンに移り、Faugnoが単独のCEOとなった。11月6日、同社は年間経常収益が4億ドルを超え、フリーキャッシュフローは黒字を維持していると発表した。法人顧客は18万社(Fortune 100の30%超を含む)、保護する認証情報は13億件、従業員は約1,400人で、あわせてMichael Hughesが社長、John Torreyが最高事業責任者に就任した。FaugnoはCNBCの取材に対し、新規株式公開(IPO)を2026年または2027年に検討していると語った。12月にはAWS re:Invent 2025でAWS Partner Awardの「Canada Rising Star Technology Partner of the Year」を受賞した。
2026年1月にNancy Wangが最高技術責任者に就任し、3月17日には人間・機械・AIエージェントの認証情報を一つの基盤で発見・保護・監査する「1Password Unified Access」を発表し、Unified Access Proの一般提供を開始した。同月31日にはAWS Security Competencyの「Infrastructure Protection」区分の認定を受けた。6月15日にはイスラエルのテルアビブとニューヨークに拠点を置くジャストインタイム型アクセス管理企業Aponoを買収し、必要な時にだけ権限を付与して作業後に自動で取り消す仕組みをプラットフォームに取り込んだ。Aponoの約80人の従業員はニューヨークなどの既存拠点から1Passwordに合流し、同社はAponoを単独製品としても提供し続けるとした。買収額は非公開だが、イスラエルの経済紙Calcalistは2億5000万〜3億ドル規模と報じた。同日、実行時にAIエージェントや機械のワークロードへ短期の認証情報を発行する「1Password Credential Broker」を非公開ベータとして発表した。6月23日には、ガートナーの「2026 Magic Quadrant for SaaS Management Platforms」で1Password SaaS Managerがリーダーに位置付けられたと発表した。7月16日にはAnthropicと共同で、AIアシスタントClaudeが認証情報を見ることなくウェブサイトへログインできる「1Password for Claude」をMac向けに提供開始した。
利用者の情報は「保管庫」と呼ばれる単位で暗号化して保存され、PBKDF2で強化されたアカウントパスワードでロックされる。2010年代半ば以降の1Passwordは、開発元が運営する有料のサブスクリプション型サービス「1Password.com」のアカウントを通じて保管庫をクラウド上に置き、端末間で同期する方式を基本としている。旧版ではWi-Fi経由のローカル同期やiCloud同期がiOSとmacOSに限って提供されていた。
アカウントには個人向け、複数人で保管庫を共有する家族向け(1Password Families)、チーム・法人向けのプランがある。2017年5月に導入された「トラベルモード」は、「旅行に安全」と指定した保管庫以外を端末のローカルストレージから一時的に取り除く機能で、国境検問所などで当局からロック解除を求められた場合の影響を抑えることを目的とする。
デスクトップアプリはmacOS、Linux向けに、モバイルアプリはiOSとAndroid向けに提供され、ChromeOSにも対応する。2022年10月にはApple Watch向けの1Password 8が公開され、コンプリケーションから保管庫の項目を参照できるようになった。2021年8月に早期アクセスが始まった第8世代(1Password 8)では、それまでプラットフォームごとに別々に開発されていたアプリを、Rustで書かれた共通のコアライブラリ「1Password Core」の上に再構築した。Linux版とMac版のユーザーインターフェースにはブラウザ拡張機能の実装を流用したウェブ技術(Electron)が用いられ、iOS版はSwiftUIで開発された。Mac版の第8版では、macOS上の任意のアプリやターミナルに入力できる「Universal Autofill」、キーボードから呼び出せる「Quick Access」パネル、Touch IDやApple Watchによるロック解除が導入された。
ブラウザ拡張機能はChrome、Safari、Firefox、Braveなどに対応し、ウェブサイトのログイン情報の保存、自動入力、新規サイト向けのランダムなパスワード生成を担う。2017年11月に公開された「1Password X」はデスクトップアプリを必要とせずブラウザ内だけで動作する設計で、1Password.comのアカウントが必須であった。1Password Xは2018年3月の更新で日本語に完全対応した。モバイル版はiOS 12のパスワード自動入力やAndroid Oreo以降のオートフィルAPIと統合し、アプリやブラウザでのログイン情報の入力・保存に対応している。
「Watchtower」は保管庫内のパスワードを診断する機能で、2018年5月の刷新後は、パスワードの使い回し、二要素認証を有効化できるサイト、利用中のウェブサイトで公表された情報漏洩の通知などをまとめて表示する。同年8月からはセキュリティ研究者Troy Huntの「Have I Been Pwned」が提供するPwned Passwordsと連携し、過去の情報流出で公開されたパスワードと一致するものを警告する。照合はパスワードのハッシュ値の先頭5文字だけをサービスへ送る方式で、パスワード自体は端末の外へ出ない。1Password 8ではWatchtowerダッシュボードが加わり、パスワード強度の算出や診断は端末上で行われる。
ブラウザ拡張機能は、ログイン情報を保存した際のURLと現在のページのURLが一致しない場合には自動入力を行わない。2026年1月にはこれを補う機能として、利用者がログイン情報をコピー・アンド・ペーストしようとした際にURLの確認を促す警告を表示するようになった。
同社は2022年にFIDOアライアンスに加盟し、同年11月にパスキー対応の計画を公表した。2023年6月のベータ版以降、ブラウザ拡張機能とモバイルアプリでパスキーの作成・保存・同期・サインインができるようになり、iOS 17以降のiOS版でも利用できる。パスキーは端末やOSベンダーの標準機能で作成した場合に同一メーカー製品間でしか同期できないことがあるのに対し、1Passwordに保存したパスキーは対応するすべての端末で利用できる点を、国内販売元のソースネクストは特徴として挙げている。1Passwordのアカウント自体をパスキーで作成・ロック解除する仕組みも2023年2月に計画が公表され、同年7月の非公開ベータを経て12月に個人向けアカウントの公開ベータとなった。
2020年9月に米国向けに導入された仮想カード機能では、Privacy.comと連携して単回または用途限定のクレジットカード番号を1Passwordから生成し、実際のカード番号を販売者に渡さずに決済できる。2021年9月にはFastmailとの提携で「Masked Email」が導入され、ウェブサイトのサインアップ画面から離れずに使い捨てのメールアドレスを生成し、実際のメールアドレスを秘匿できるようになった。
2021年4月に発表された「Secrets Automation」は、APIトークン、鍵、証明書などインフラのシークレットを保管庫で一元管理し、CI/CDや各種ツールから安全に取り出すための仕組みである。2022年3月には、SSH鍵の生成と保管を行い、Gitなどのプロセスからの鍵の利用要求を利用者が明示的に承認する「1Password SSH Agent」が提供され、同日にコマンドラインツール「1Password CLI」の新版も案内された。2025年以降は、AIエージェントやコーディング支援ツールがシークレットを直接扱わずに済むよう、Model Context Protocol(MCP)サーバー経由で実行時に認証情報を供給する機能が加わり、OpenAIのCodex(2026年5月)やAWSの開発エージェントKiro(2026年6月)などとの統合が発表されている。
法人向けプラン「1Password Business」(同社は法人向けパスワード管理製品を「1Password Enterprise Password Manager」と総称する)は、管理者による保管庫と権限の管理、ポリシー設定、利用状況の記録、アイデンティティプロバイダーとの連携によるユーザー自動登録などを備える。2023年以降はOktaやOpenID Connect対応のプロバイダーによるシングルサインオンで1Passwordをロック解除でき、従来のアカウントパスワードとシークレットキーの代わりにIDプロバイダーの認証を使える。2025年2月にはMSPが複数の顧客を一括管理できるMSP Editionが発売された。
イベントレポーティング:1Password Businessでは、サインインの試行、保管庫内アイテムの利用、監査イベントといったアカウントの活動を「1Password Events API」を通じて外部のSIEM(セキュリティ情報イベント管理)やオブザーバビリティサービスへ送出できる。1Passwordの管理画面から選択できる連携先にはSplunk、Elastic、Datadog、Sumo Logic、Panther、CrowdStrike、Rapid7などがある。Splunkとの連携は2018年にコマンドラインツール経由で案内され、2021年7月に専用のAPIが公表された。2023年7月に発表されたDatadogとの連携では、Datadog側にCloud SIEM向けのダッシュボードと検出ルールが用意され、Elasticも取り込み用のインテグレーションを提供している。
Extended Access Management:2024年5月に発表されたXAMは、Enterprise Password Managerに、Kolideの技術を基にした端末の健全性確認「1Password Device Trust」と、Trelicaの技術を基にしたSaaS利用状況の可視化「1Password SaaS Manager」を組み合わせた製品群で、IDプロバイダーのシングルサインオンや端末管理ツールが対象としない未管理のアプリ・端末・利用者からのサインインを統制することを目的とする。同社はこの領域を新しいカテゴリーと位置付け、「Access-Trust Gap」(アクセスと信頼の隔たり)と呼ぶ課題を解消するものだと説明している。
Unified Access:2026年3月に発表されたUnified Accessは、人間のIDとパスワードやパスキーに加え、AIエージェントや機械のワークロードが用いるシークレットの発見・保護・監査を一つの基盤に統合するものである。AIエージェントには常時すべての権限を持たせるのではなく、要求された時にだけ必要なシークレットを提供し、監査ログを残す。発表時点でAnthropic、Cursor、Perplexity、Vercelなどが連携先として名を連ねた。2026年6月に買収したAponoのジャストインタイム型アクセス管理と、非公開ベータのCredential Brokerもこの基盤に組み込まれる。
2025年4月の「Agentic AI Security」では、AIエージェント向けのSDKやサービスアカウントにより、エージェントが保管庫のシークレットを読み書き・ローテーションできるようにした。同年9月にはPerplexityのAIブラウザ「Comet」に1Passwordの自動入力とアクセス制御が組み込まれ、10月にはBrowserbaseと提携し、AIエージェントがブラウザ操作でログインする際に、人間が承認した認証情報を暗号化したまま拡張機能が直接入力する「Secure Agentic Autofill」を発表した。認証情報は大規模言語モデルのコンテキストに入らない設計である。
2026年7月16日に提供が始まった「1Password for Claude」は、AnthropicのClaudeがブラウザ上で利用者に代わって作業する際、Claudeが必要なログイン項目を1Passwordに要求し、利用者がTouch IDなどの生体認証で承認すると、拡張機能が認証情報をウェブページへ直接入力する仕組みである。パスワードやワンタイムパスワードはClaudeのモデルコンテキストやメモリ、Anthropicのシステムには送られず、アクセス権はそのセッションに限って有効となる。同時に、対応するAIエージェントがブラウザを操作し始めると拡張機能が自動的に制限モードへ移行し、承認された項目以外へのアクセスを遮断する「Agentic Mode」がすべての利用者向けに導入された。提供当初はMac向けで、個人・家族・法人の各プランで利用できる。
1Passwordのアカウントは、利用者だけが知るアカウントパスワードと、アカウント作成時に発行される128ビットの「シークレットキー」(Secret Key)の2つの鍵で保護される。シークレットキーはサーバー側には送られず、アカウントパスワードと組み合わせて暗号鍵を導出するため、仮にサーバー上のデータが取得されてもアカウントパスワードの総当たりだけでは復号できないと同社は説明している。ITmediaは2023年の比較記事で、34桁のシークレットキーが新しい端末でのサインイン時に求められ、2回目以降はマスターパスワードだけで使える点を、利便性とセキュリティの均衡を取る仕組みとして紹介した。
クライアントとサーバー間の認証にはSecure Remote Password(SRP)プロトコルを用い、アカウントパスワードそのものはサーバーへ送信も保存もされない。同社は2018年にSRPのGo実装をオープンソースとして公開した。データはエンドツーエンド暗号化され、通信路のTLSだけに依存しない多層構成をとる。同社はセキュリティ設計を白書として公開し、外部の専門家による監査結果も公表している。
第三者認証としては、2018年にSOC 2報告書を取得し、2024年7月にISO/IEC 27001:2022、27017、27018、27701の認証取得を発表した。脆弱性報奨金制度は当初Bugcrowd上で運営され、2022年3月に最高報奨金を100万ドルへ引き上げた。その後プログラムはHackerOneへ移管された。
開発元のAgileBits Inc.はトロントに本社を置き、対外的には「1Password」を企業名としても用いている。従業員は2012年の約20人から、2019年の176人、2022年1月の約570人、2025年の約1,400人へ増加した。同社はリモートワークを前提とした企業文化を採っており、創業者のTeareは通勤からの解放と家族との時間を創業動機の一つとして挙げている。
2026年時点の経営陣は、CEOのDavid Faugno、社長のMichael Hughes、最高事業責任者のJohn Torrey、CTOのNancy Wangらで、取締役会はエグゼクティブチェアマンのJeff Shiner、共同創業者のSara Teare、アクセルのArun Mathew、ICONIQのWill Griffithらで構成される。同社によれば、2026年時点で法人顧客は20万社を超え、Fortune 100の30%超とForbes AI 50の3分の2超が含まれる。
| 時期 | ラウンド | 調達額 | 主導投資家 | 企業評価額 | 出典 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2019年11月 | シリーズA | 2億ドル | アクセル | 非公開 | |
| 2021年7月 | シリーズB | 1億ドル | アクセル | 20億ドル | |
| 2022年1月 | シリーズC | 6億2000万ドル | ICONIQ Growth | 68億ドル |
2025年7月時点の累計調達額は9億2000万ドルである。
| 発表 | 企業 | 所在地 | 事業 | 出典 |
|---|---|---|---|---|
| 2021年4月 | SecretHub | オランダ | インフラ向けシークレット管理 | |
| 2022年11月 | Passage | アメリカ・テキサス州オースティン | パスキーによるパスワードレス認証 | |
| 2024年2月 | Kolide | アメリカ・ボストン | 端末の健全性確認とコンテキストに基づくアクセス管理 | |
| 2025年1月 | Trelica | イギリス | SaaSアクセス管理・シャドーITの発見 | |
| 2026年6月 | Apono | イスラエル・テルアビブ/アメリカ・ニューヨーク | ジャストインタイム型アクセス管理 |
2025年2月、Oracle Red Bull Racingと複数年契約を結び、同チームの独占サイバーセキュリティパートナーとしてXAM製品を提供するとともに、車両のハロやチーム資産に1Passwordのロゴが掲出された。同年6月のカナダグランプリでは、F1アカデミーに参戦するRed Bull Racing Pepe Jeans Academy Programmeの車両にカナダの女性アーティストがデザインした特別塗装を施した。同年10月にはSmith Entertainment Groupとの複数年契約でNBAのユタ・ジャズとNHLのユタ・マンモスの公式サイバーセキュリティパートナーとなり、マンモスのアウェイユニフォームに同チーム初のジャージパッチとしてロゴが入った。
1Passwordは2018年3月のブラウザ拡張機能「1Password X」の更新で日本語に完全対応し、公式サイトとサポートサイトには日本語版が用意されている。日本ではソースネクストが個人向けの「1Password 3年版」を販売しており、同社はこれを公式サイトより安価な独自の製品形態と説明している。同社はAmazon.co.jpのセールでも1Password 3年版を割引対象に含めている。また法人向けでは、2021年3月に株式会社オールリンクスがAgileBits社とリセラー契約を締結し、日本国内で法人向け1Passwordの販売、導入支援およびサポートを行っている。同社は1Passwordに関する法人向け情報サイト「法人の為のパスワード管理(onlypass.jp)」を運営しており、2026年1月に同サイトをリニューアルした。
『Der Standard』は2016年、読者に対して1Passwordをパスワードの管理・整理に効果的なツールとして紹介した。2017年の『コンシューマー・レポート』の記事では、セキュリティ企業Trail of BitsのCEOであるDan Guidoが、1PasswordをDashlane、KeePass、LastPassと並ぶ人気のパスワードマネージャーとして挙げ、どれを選ぶかは主に個人の好みによると述べた。
法人市場では、フォーブスの「Cloud 100」(非上場クラウド企業のランキング)に2022年から4年連続で選出され、2025年は39位であった。ガートナーの「Magic Quadrant for SaaS Management Platforms」には2025年版で1Password SaaS Managerが掲載され、2026年版ではリーダーの象限に位置付けられた。Oktaが自社基盤上のアプリ利用を分析した2026年版「Businesses at Work」報告書では、1Passwordが技術セクターで前年比370%のユーザー増を記録し、分析対象の8,000超のアプリの中で業種別の伸び率が最も高かったとされる。
2017年、Cloudflare(通称「Cloudbleed」)のインフラにバグが発生、それに起因するデータ流出の懸念が生じ、主要なオンラインサービスの多くに波及すると案じられた。当1Passwordは利用者にリスクはないと表明し、データ保護はエンドツーエンドの暗号化を施しており、TLSのみに依存していないと強調した。
2017年にフラウンホーファー安全情報技術研究所(頭字語SIT)が分析結果を発表し、当1Passwordを含めた複数のAndroid用パスワードマネージャーにセキュリティ上の欠陥が複数、特定されたと公開した。パスワード漏洩、URLをHTTPSからHTTPへダウングレード、データベースに保存したタイトルとURLの暗号化の解除、個人特定データの盗み読み、情報漏洩など、開発者への報告を追って修正された。
2023年10月、当1Passwordの開示により、Okta社の顧客サポートシステム関連のセキュリティ侵害が波及したと判明した。疑わしい活動は迅速に封じ込め、利用者あるいは従業員、さらにまたその他の機密データの侵害はなかったとしている。
ハッチンソンらによる2024年の研究では脆弱、流出したもの、ランダムに生成したパスワードをそれぞれ用いて、当1Passwordを含むパスワードマネージャー14件の「パスワードチェック」機能を調査した。著者らは、評価対象の製品が一貫性もなく時には不完全な形で、脆弱または侵害されたパスワードを報告すると発見した。それらマネージャー機能にはその時点で、既知の流出パスワード全件に正常なフラグ付与をしたものは1件もない。同研究から、このような不一致により利用者は誤った安心感を受けている可能性を指摘し結論づけた。
セキュリティ研究者のマレク・トート(Marek Tóth)は、2025年8月9日のDEF CON 33において、当1Passwordを含む複数のパスワードマネージャーのブラウザ拡張機能における脆弱性を発表した。これらの拡張機能は既定の設定のままではDOMベースの拡張機能クリックジャッキング手法に晒され、攻撃者がワンクリックでユーザーデータを抽出できると判明した。2025年4月付で影響を受けるパスワードマネージャーのベンダーに通知、トートによれば、1Passwordのバージョン8.11.8.40は依然として脆弱性を保ったままである。