Software as a Service(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)、略称SaaS(サース、サーズ)は、必要な機能を必要な分だけサービスとして利用できるようにしたソフトウェア(主にアプリケーションソフトウェア)もしくはその提供形態のこと。一般にはインターネット経由で必要な機能を利用する仕組みで、シングルシステム・マルチテナント方式になっているものを指す。以下、特に断りのない限り、上記定義でのSaaSについて記述する。
アメリカ国立標準技術研究所(NIST)が2011年に公表したクラウドコンピューティングの定義では、SaaSはIaaS・PaaSと並ぶ3つのサービスモデルの1つに位置づけられている。2010年代以降は業務アプリケーションのほか、ソフトウェアの開発・運用に用いるツールをSaaSとして提供する例もみられ、日本の政府情報システムでは2018年以降、クラウドサービスの利用が第一候補とされている。
従来のソフトウェア販売の中心は、ソフトウェアをパッケージ製品としてユーザーにライセンス販売する形態であり、ユーザーは自分の持つコンピュータでそのソフトウェアを稼働させ、利用する形態であった。 一方、SaaSでは、ソフトウェアを提供者(プロバイダ)側のコンピュータで稼働させ、ユーザーはそのソフトウェア機能をインターネットなどのネットワーク経由でサービスとして使用し、サービス料を支払う形態(ビジネスモデル)が主流となっている。
SaaSの利点として、ユーザー側としては、使用した期間・量だけのサービス料で済む、ユーザー側のコンピュータ導入・構築・管理などが不要(または最小限)になる、このため短期間での利用開始や、ユーザー数や処理量の急な増減にも対応しやすい、常に最新のソフトウェア機能を使用できる、などがある。 またプロバイダ側としては、新規ユーザーの獲得が容易、ソフトウェアのみの販売よりも売上の向上・平準化になる、コンピュータ運用はスケールメリットと自社要員が生かせる、各ユーザー固有の導入や保守のサポートが軽減できる、などがある。
デメリットには、プロバイダ側や通信回線、ネットワークの障害時には使用できない、セキュリティ上の懸念、ユーザー固有の仕様変更や運用変更は困難、長期利用の場合に割高となる可能性、などがある。 また、クラウドコンピューティング上のSaaSの場合は、クラウドが示す「向こう側」がどこなのかが不明確なため、国外のIDCで運用されていた場合やデータの損失などが発生した場合、国内法が適用されないというリスクもある。
SaaSは、ネットワーク経由という面ではネットワーク・コンピューティングの一形態であり、従量制課金の場合はユーティリティコンピューティングの一形態であり、またSaaSプロバイダはASPと同義語である。また、比較的広い意味での「クラウドコンピューティング」における、IaaS、PaaS等に並ぶ一種ともされる。
なお、SaaSに類似した形態としては、各種のホスティングサービスやアウトソーシングサービスなどがある。これはプロバイダ側にハードウェアとソフトウェアがあり、ユーザーはネットワーク経由で使用しサービス料を支払う点ではSaaSと同じだが、ホスティングではハードウェアとソフトウェア、アウトソーシングでは契約によってはソフトウェアなどを、ユーザーが購入する必要がある。例にはIBMのApplications on Demand (AOD) などがある。
NISTは2011年9月に公表した「The NIST Definition of Cloud Computing」(SP 800-145)で、クラウドコンピューティングを5つの基本的特徴、3つのサービスモデル、4つの配置モデルによって整理し、SaaSを、利用者に提供される機能が「クラウドのインフラストラクチャ上で稼動しているプロバイダ由来のアプリケーション」であるサービスモデルと定義した。この定義では、利用者はウェブブラウザのようなシンクライアント型のインターフェイス、またはプログラムインターフェイスを通じてアプリケーションにアクセスし、ネットワーク・サーバー・オペレーティングシステム・ストレージといった基盤のインフラストラクチャを管理・制御しない(利用者固有のアプリケーション構成の設定は例外となり得る)とされる。この定義の日本語訳は情報処理推進機構(IPA)が2011年に公表した。
SaaSの発音は、「サース」とする場合が多い。「サーズ」と濁って発音することはあったが、一般的にも専門的にもSARSとの混同を避けるために「サース」と発音しているとされる。日本経済新聞の用語解説でも「サース」の発音を採用している。
ソフトウェアをネットワーク経由でサービスとして提供する事自体は、ASPとして、従来より行われている。ASPとSaaSを区別することなく使われていることが多い。有料の電子メールサービス、グループウェア、各種の検索サービス、オンラインゲームなどである。史上初のSaaSアプリケーションは1995年にリリースされたViawebとMYOBライトと言われている。
2006年にはクラウドコンピューティングという言葉が普及し、クラウドコンピューティング上で提供されるソフトウェアがSaaSと呼ばれるようになった。
2007年後半に日本でクラウドコンピューティング上で提供されるSaaSの定義が各プロバイダより発信され始め、リーマンショック後コスト削減サービスとして急速な普及が始まった。各ASP事業者(ベンダー)は2009年頃から、アプリケーションレイヤー上の提供名称を、ASPからSaaSへと変え始めた。この頃、Sansan(2007年設立)、プレイド(2011年設立)、freee(2012年設立)、マネーフォワード(2012年設立)、アンドパッド(2012年設立)などの日本SaaSスタートアップ企業が生まれた。
「Software as a Service」の語は、米国の業界団体Software & Information Industry Association(SIIA)が2001年2月に公表した白書「Software as a Service: Strategic Backgrounder」で用いられている。同白書は、SaaSを一般にASPモデルと呼ばれているものとしたうえで、ASPやアプリケーションインフラストラクチャプロバイダなど呼称が乱立していた状況を踏まえ、集中化されたデータセンターからネットワーク経由でアプリケーションを配備し、継続的な料金で利用させるモデルを総称してsoftware as a serviceと呼ぶとした。同白書によれば、ASPの語はもともと調査会社のIDCが造ったものである。日本では2006年前後からSaaSが新たなIT用語として広まり始め、従来のASPとの異同が業界内で論じられた。
2000年代後半の日本では、「所有から利用へ」の流れの中で、国内のITベンダーが自社製品のSaaS化や、ソフトウェアベンダーがSaaSを開発・運用するための基盤の提供に動いた。IT Leadersは2009年、米国のセールスフォース・ドットコムを「国内のSaaS需要を掘り起こした先駆者」と評し、NECが2008年10月にSaaS基盤サービス「RIACUBE/SP」を開始したことなどを報じている。2018年6月には政府が、政府情報システムにおいてクラウドサービスの利用を第一候補として検討するクラウド・バイ・デフォルト原則を決定した(詳細は#政府の動きを参照)。2020年には新型コロナウイルス感染症の流行下でテレワークが増加し、テレビ会議などのコミュニケーションツールの利用が拡大した。総務省の令和3年版情報通信白書は、Web会議サービス「Zoom」が2020年4月3日からの19日間で1億人のアクティブユーザーを増やしたことを挙げている。
日本国内ではSaaS専業ベンダーや、基幹システム関連でのSaaS提供はそれ以外の業態や形態と比べると少数だが、2009年から2010年にかけてSaaSを標榜するサービスが増えてきており、少しずつ市場が広がり始めている。2022年12月時点でのARR(Annual Recurring Revenue:年間経常収益)は、Sansan、ラクス、サイボウズ、freee、マネーフォワードが上位を占めている。
また、キャリア各社もSaaS提供インフラの構築に積極的である。KDDIは、2007年6月にマイクロソフトとの包括提携を行った。また、NTTコミュニケーションズは、SaaSをNGNの展開における重要なサービスと位置づけている。
グローバル市場では、2010年頃からSaaS専業で売上首位セールスフォース・ドットコム(現・セールスフォース)に追随して、オンプレミス中心だったアドビ、マイクロソフト、SAP、オラクルなどの大手ソフトウェアベンダーのSaaSシフトが進んだ。2020年7月時点では売上高シェアはマイクロソフト、セールスフォース・ドットコム、SAP、オラクルの順位となっている。
IDC Japanの2025年2月の発表では、2024年の国内パブリッククラウドサービス市場(SaaSを含むパブリッククラウド全体・売上額ベース)は前年比26.1%増の4兆1423億円であり、2029年には8兆8164億円に達すると予測されている。世界市場では、調査会社のガートナーが2024年11月時点で、2025年のSaaS(クラウドアプリケーションサービス)への支出を前年比19.2%増の約2990億ドルと予測している。利用の広がりについては、総務省の令和7年通信利用動向調査で、クラウドサービスを一部でも利用している企業の割合は83.5%、全社的に利用している企業の割合は60.0%となり、利用したサービスの内容は「ファイル保管・データ共有」(73.3%)、「社内情報共有・ポータル」(61.4%)、「電子メール」(57.4%)が上位であった。
適用領域は業務アプリケーションに限られず、ソフトウェアの開発・運用に用いるツールがSaaSとして提供される例もある。ソースコードのリポジトリサービス「GitLab」は、リポジトリサーバーソフトウェアとしての提供に加え、これをホスティングしたクラウドサービスの形態でも提供されている。システム監視・オブザーバビリティ(可観測性)の分野では、DatadogがSaaS型クラウドサービスとして、New RelicがSaaS型オブザーバビリティプラットフォームとして提供されている。
国内では、ITベンダーが自社パッケージのクラウド(SaaS)版を提供するとともに、海外のSaaS製品の販売を担う例がある。日立ソリューションズは、パッケージ版として提供してきた就業管理システム「リシテア/就業管理」の機能をクラウドサービスとして提供する「リシテア/就業管理 クラウドサービス」を2019年6月に提供開始し、顧客管理・契約管理・課金請求を扱うサブスクリプションビジネス向けクラウドサービス「BSSsymphony」も提供している。同社は2020年9月からクラウド型の人事業務アプリケーション「Workday」の販売を開始しており、同社のラインアップには他社製品のSalesforceやServiceNowなども含まれる。富士通は2026年3月、生成AIを用いてレガシーシステムのソースコードから設計書を自動生成するサービスをSaaSとして提供開始した。NECは2024年2月、New Relicとパートナー契約を締結し、同製品のライセンス販売を開始した。伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)も2019年12月にDatadogの取り扱いを開始している。
2008年1月、経済産業省は「SaaS向けSLAガイドライン」を定め、サービス利用者が安心して利用するために、利用者とSaaSベンダー間で認識すべきサービスレベル項目や確認事項等について明示した。また2008年2月、総務省は「ASP・SaaSにおける情報セキュリティ対策ガイドライン」を定め、組織・運用と、物理的・技術的側面からSaaS提供のための指針を示した。例えば、組織内での情報管理責任者を定め、その利用範囲を明確にし、文書化することや、物理的な措置として、利用者の利用状況や例外処理、情報セキュリティ事象のログ保存期間などを明示している。
2008年7月、経済産業省は「中小企業向けSaaS活用基盤整備事業」を開始した。これは、アプリケーションソフトウェアをSaaSとして提供することで、情報技術を活用するための経営基盤が必ずしも充実していない中小企業・小規模企業の競争力を強化すること目的としている。2009年3月31日、財務・会計などのASP/SaaS事業者がJ-SaaSでの提供が開始された。
2018年6月、政府は「政府情報システムにおけるクラウドサービスの利用に係る基本方針」を決定し、政府情報システムではクラウドサービスの利用を第一候補としてその検討を行うというクラウド第一原則(クラウド・バイ・デフォルト原則)を示した。デジタル庁が公開している2025年5月27日決定の現行方針「政府情報システムにおけるクラウドサービスの適切な利用に係る基本方針」もこの原則を引き継ぎ、クラウドサービスの利用はガバメントクラウドを原則とすること、SaaSについては開発量削減の観点から幅広く優先的にその利用を検討することを定めている。政府はまた、クラウドサービスのセキュリティ対策を監査機関が評価し登録する制度として「政府情報システムのためのセキュリティ評価制度」(ISMAP)を設け、2020年6月30日にその利用に関する方針を決定した。政府機関は原則としてISMAPに登録されたサービスから選定することとされ、2022年6月1日時点で25社34サービスが登録されており、同年9月にはSaaSのみを対象とする簡易版の「ISMAP-LIU」が開始された。中小企業向けには、中小企業・小規模事業者のITツール導入費用の一部を補助する「デジタル化・AI導入補助金」(旧・IT導入補助金)があり、2026年時点でクラウドサービス利用料も補助対象に含まれている。
業界団体として、「特定非営利活動法人 ASP・SaaSインダストリ・コンソーシアム」(略称:ASPIC)がある。ASPICは1999年11月に任意団体として設立された後、2002年にNPO法人の認証を取得し、活動している、ASP・SaaSを推進する団体で会員企業が約170社(2008年5月現在)ある。ASPICでは「ASP白書2003」においてASPの定義を「特定及び不特定ユーザが必要とするシステム機能を、ネットワークを通じて提供するサービス、あるいは、そうしたサービスを提供するビジネスモデル」としており、ASPとSaaSを同意語として扱っている。 またSaaSの普及を目指し、ASP・SaaS安全・信頼性情報開示認定機関として、サービスの安全性や提供事業者を審査し利用者が安心してSaaSを利用できる基準を設けている。
ASPICはその後も活動を続け、2026年時点では「一般社団法人日本クラウド産業協会」(略称:ASPIC)の名称で、「ASP・SaaS・クラウドの普及促進と市場拡大」と「安心安全なクラウドサービスの推進」を2つの目標に掲げている。上記の情報開示認定は2026年時点では「クラウドサービスの安全・信頼性に係る情報開示認定制度」の名称で運営され、同年8月時点で累計338サービスを認定している。
SaaSを "Service as a Softwere Substitute" (SaaSS) として参照する者である、自由ソフトウェア財団のリチャード・ストールマンから、SaaSのひとつの注目すべき批判が出ている。彼はSaaSSを使うことは自由ソフトウェアの根本方針の侵害に当たると考える。ストールマンによれば:
SaaSSのせいで、その利用者は彼らの計算を行う実行ファイルをまさしく持つことができない:利用者がそれを見たり触れたりできないところの、誰かのサーバにそれは在る。従ってそれについてそれが本当に何をしているのかを確認することは不可能であり、それを変更することも不可能である。