Project Silica(プロジェクト・シリカ)は、マイクロソフトとワーナー・ブラザースなどが共同で開発を進めている、石英ガラスを用いた長期データ保存技術に関する研究プロジェクト。従来の磁気テープやハードディスクドライブに代わる、長寿命のオンラインストレージの実現を目指す。ガラス板1枚に数テラバイト(映画約3,500本分、長編小説『戦争と平和』約87万5,000冊分)のデータを保存可能としている。
Microsoft Azureなどのクラウドサービスが急成長する一方で、従来のインフラ技術(ムーアの法則の鈍化、CMOSスケーリングなど)は限界を迎えつつあった。 このことから、ストレージ、ネットワーク、コンピューティングの3大分野において、これまでの漸進的な改善ではなく、「光技術」を用いたイノベーションが必要と考えられた。
その後、マイクロソフトリサーチと、光学研究グループを持つ6つの大学(スイス連邦工科大学ローザンヌ校、アイントホーフェン工科大学、ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン、カリフォルニア大学サンタバーバラ校、ケンブリッジ大学、サウサンプトン大学)が提携。大学側は基礎研究を次世代のクラウド開発に反映でき、博士課程の学生は実務的な知見や支援を受けられるというメリットがあった。マイクロソフト側は、長期的な研究構想の推進や将来的な人材育成、機械学習を用いた技術の高速化・大容量化といったシナジーを生み出すことを目的とした。
Project Silicaは、データを赤外線レーザーで石英ガラス板の中に3次元ピクセル(ボクセル)としてエンコードする技術を採用している。ガラス内部に100層以上のデータをレーザーを用いて記録する。記録されたデータは、特殊な顕微鏡とAIを組み合わせて読み取られる。この技術は、頻繁にアクセスされることはないが、長期保存が必要な、医療データや金融データなどのコールドデータを保存することを一つの目的としている。
最初のステップとして、ベンチャーグループElireと協力し、ノルウェーのスヴァールバル諸島にある「グローバル・ミュージック・ヴォールト(世界音楽保管庫)」で音楽遺産の永続的な保存に活用されている。
特殊な装置が必要となるため、一般的な個人向けではなく、大規模なアーカイブやクラウドデータセンター向けに設計されている。
石英ガラスは、化学的に安定しており、熱や水、電磁干渉、その他の環境要因に対して高い耐性を持つため、理論的には数千年以上ものデータ保存が可能となる。ミュンヘンのエジプト美術館にある、3500年前のガラス杯(トトメス3世の時代に作られた最古のガラス容器)の例から見て、ガラスが極めて長期にわたって劣化せず存在し続けられる素材であることが分かる。従来のハードディスクやCD/DVDのように数年〜数十年で経年劣化(ディスクの劣化)する心配がなく、メンテナンスや移行のコストを大幅に削減できる可能性がある。非常に高温のオーブンで焼く、沸騰したお湯に浸す、電子レンジで加熱する、スチールウールで傷をつけるといった過酷なテストにも耐え、しっかりとデータは無事な状態にあった(ただし、ハンマーで叩き割ることは可能)。
プロジェクト開始時は製造が難しく高価な「溶融石英ガラス」でしか技術が機能しなかったが、 台所の調理器具やオーブンの扉などに使われる、入手しやすく低コストな「ホウケイ酸ガラス」へのデータ保存に成功し、商業化における最大の障壁だった媒体コストの問題が大きく前進した。
プロジェクトの一環として、2019年にはWarner Bros.の映画『スーパーマン』の75.6GB+エラー冗長コードの映像データが、コースターサイズ(厚さ約2ミリ)の石英ガラス板に保存され、再生に成功したという概念実証(PoC)が発表された。この成果は、この技術の実用化に向けた重要な一歩となった。今後、膨大な資産(『カサブランカ』や『フレンズ』など)を保護するため、デジタル撮影された作品の劣化や損失を防ぐ永続的な物理バックアップ手段として期待されている。また、切手サイズのガラス片にMicrosoft Windows 10のISOイメージを書き込むことにも成功している。
1977年にアメリカ航空宇宙局(NASA)が打ち上げた「ゴールデンレコード」の現代版となる「ゴールデンレコード 2.0」の制作を進められており、Project Silicaのガラス板が採用されてる。